今でも時折夢に見る。
あの、心から笑っていた幸せな記憶を。
泣きたくなるほどに優しいあなたの笑顔を。
あなたの、手の…ぬくもりを。












あの人と手をつなぐのが、スキだった。






出会ったばかりのころ、俺はまだ小さくて。
人ごみの中、はぐれないようにつないだあの大きな手のぬくもりが、大好きだった。







「カカシ」


人ごみに押し流されそうになったオレを抱き上げて、先生は苦笑した。
「気をつけないと。はぐれちゃったら大変だろう?」
そういって、軽々と抱き上げられたことにすねてふくれっつらをしているオレを見て笑った。



こうやって、抱き上げられるのは自分がものすごく子供みたいで、嫌いだ。
実際子供でしかないけれど、イヤ。


だって、オレはもう下忍なんだから。



オレは、先生の教え子なんだよ?



オレを地面にそっとおろして、軽く頭をぽんぽんと叩くと、片手を差し出した。


「?」


何がしたいのかわからないで首をかしげると、先生はまた笑った。





「手を、つなごう?離れてしまわないように」





その優しい笑顔と、差し伸べられた手が嬉しくて。


「うん!」


うなずくと、素直にその大きな手に自分の小さな手を重ねた。
「へへっ」
つないだ手のぬくもりがなんだか照れくさくて、ちょっと笑うと先生もオレを見て嬉しそうに笑った。







こうやって、手をつないで一緒に歩くのは、スキ。
だって、抱き上げられるのよりも対等に見てもらっている感じがするから。







「あったかいね」
もう11月だというのに、つないだその手は、やたら暖かく感じられて、すごく嬉しくって、またオレは笑った。
「そうだね。カカシの手は、あったかいね」
先生が、笑って言ったけどオレは首を横に振った。
「違うよ。あったかいのは、先生の手だよ」
オレの言葉に、今度は先生が首を横に振った。
「オレの手よりもカカシの手のほうがあったかいよ」
「先生のほうがあったかいの!」
「カカシのほうがあったかいに決まってるでしょ!」






結局、家に着くまでずっとどっちの手があったかいかということで言い争っていた。
ずっと言い争っていてきりがないから、結局家に着いたときにお互い「二人とも手があったかいんだね」ということで、妥協した。






つないでた手は、とってもあったかくて幸せな気分だった。
でも、本当にあったかいのは、手じゃなくって先生の優しさ。
だから、先生の隣はいっつもあったかいんだ。
ぽかぽかの、陽だまりみたいに。
本当に、あったかくて優しい人。

今までオレの周りにはこんな人はいなかった。
そばにいるだけであったかい。
それがすごく心地よくって、オレは気がついたら笑ってる。
先生に出会う前は、笑うことなんて数えるほどしかなかったのに。

ねえ先生がそばにいてくれたら、きっとオレの心に隙間風が吹くことはもうないよ。







じっと先生を見上げているオレに気づいて、先生がにっこり笑ってくれた。
「どうしたの?」
その言葉に
「なんでもない」
と言いながら、やっぱりオレは先生と同じように笑っていた。








遠い日の、懐かしい記憶。
心から笑っていたあのころ。
あの人のことをただ純粋に“スキ”だった。
先生はまだ一介の上忍でしかなくって、俺もその教え子の一介の下忍だった。
あの人に対する想いをはっきりと自覚したことはなくって、苦しむこともなかった心から幸せなあのころ。
あの人を好きになったことを後悔したことはなかったけれど、でも、どこか苦しかった。
それでも、一番幸せを感じることができたのは一番苦しかったあのころだった。





この記憶はあの幸せと苦しみの日々へとつながる優しい思い出。
今では痛みを伴って胸によみがえる懐かしい日々。



「ねえ、先生。やっぱり、あったかかったのはあなたなんです」



そっと、写真に語りかける。



目が覚めれば、自分はやっぱりひとりぼっちで。
寂しくて、冷たくて。


その事実が冷たくオレに襲い掛かってくるのだけれど、それでも、夢の中でもあなたに会うことができた喜びがそれ以上にオレの心の中に広がる。
しかし、その喜びが大きければ大きいほど、もう現実で会うことはかなわないという絶望が胸に広がる。







二律背反する想い。

幸せ。
苦しい。

でも、どんなに苦しくてもオレはやっぱり幸せなんです。
この苦しみも、あなたへの想いの一部だから。
あなたを愛したことはオレの誇りだから。

あなたに会えて、よかった。











つないだ手の暖かさを、忘れない。








繋いだ手の暖かさに涙が出そうになるくらいあなたが好き



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