注意!
・狐佐助+狼幸村×兎政宗
・政宗さんがちょっと幼い感じ
・・多分、佐助(23)、幸村(19)、政宗(13〜15)くらい
・佐助幸村は主従でも幼馴染でも親友でもなんでもいいけど、とにかく仲良しな感じで
・獣耳と尻尾の生えた彼らを想像していただければ問題はないかと思います
・個人的には政宗のウサ耳は黒だとときめきます
問題がないようでしたらどうぞ↓
助けて、助けて。
誰か、お願い。
怖いよ。
死にたくない。
食べられたくない。
…怖いよぉ。
俺は狐に追われていた。仲間内では一番の俊足だし、けんかも強い。でもそれはあくまで仲間内では、の話。だって俺は所詮兎。狐ほどの凶暴さも狡猾さも持ち合わせておらず、ただ真正直に逃げるしかない。つかまったら、喰われる。逃げることしかできない。狐族の中でも、足の遅いやつや弱いやつはいる。そして俺はそういう相手にならひけを取らない自信があるし、逃げ切る自信だってある。
でも、今日の相手は別格。狐族の中でも上位に位置するに違いない。だって、今まであったこともないほどに足が速くて強くて、迫力もある。そして何より、見たこともないほどにキレイな毛並み。俺より随分年上のようで、余裕綽々という感じの笑みを浮かべていて、なぶるように楽しそうに俺を追い詰める。
俺は必死で逃げた。走って、走って、息が切れて、足もぼろぼろで。でも、死にたくなくて、喰われたくなくて、ひたすら、走った。
そのとき。
目の前の茂みから、突如現れた狼。
目の前が真っ暗になった。
ああ、もうだめだ。俺はもう喰われる。死んでしまうんだ。
絶望が襲いくる。狐だけでも一杯一杯だったのに、狼にまで狙われてしまえば、体力の限界に達しようとしている俺では逃げ切れる可能性なんて限りなくゼロに近い。
俺は、心の中で仲間たちにsorry、侘びながら覚悟を決めた。
「佐助えええぇぇぇえええぇ!」
ぎゅ、と目をつぶった瞬間。
目の前の狼が大音声で叫んだ。
は?
その声と姿を認めた狐がやれやれ、というように足を緩め、歩き始める。
今がチャンス!どうやら狐と狼は知り合いらしい。今ならば逃げられるかもしれない。そう思い、萎えかけていた心を奮い立たせ最後の気力で逃げようと一歩を踏み出したが、狐に意識が向いているとばかり思っていた狼が俊敏な動きで俺を捕らえる。
「あっ!」
腕をつかまれ、背中から捕らえられる。
狼の腕も身体も熱くて、それがよけいに恐ろしかった。肉食の獣のにおい。身がすくむ。怖い。死にたくない。
小十郎、成実、綱元…!
もっとも信頼する三人の名前を心の中で呼ぶけれど、もうどうしようもない。
狼が大きく口を開ける。きっと頭からバリバリ食べられてしまうんだ。短い一生だった。せめて痛くないように殺して欲しい。
前門の狼後門の狐。
どう転んでも助かるはずはない。長時間の鬼ごっこに疲れ果てた俺にはいまさら抵抗する力も残っていなかった。
目じりにたまった涙がぽろりとこぼれる。Shit!敵の前で涙をこぼすなんてかっこ悪い。
「嫌がる相手に無理強いするとは、見損なったぞ、佐助!!」
俺を食べるためにあけられたと思った口は、しかしそうではなかったらしい。
キッと狐をにらみつけながら、俺をぎゅうっと拘束する腕に力を込める。こんなに強く捉えなくても、今の俺にはもう逃げる気力も体力の残っていないのに。
というか、この狼はなにを言っているのだろう。
捕食されたがるやつなんていないんだから、いつだって狩も食事も無理強いなものだろう。それともなにか、この狼は相手に向かっていつも食べていいか?なんてたずねて許可をもらっているのだろうか。
ぽかんとしてしまった俺とは裏腹に、狼は腕に閉じ込めた俺の身体を反転させて顔を覗き込んでくる。尖った犬歯が怖くてたまらないけれど、俺に微笑みかける顔は優しくて甘くて、怖くなんて。
「佐助が手荒なことをして申し訳ございませぬ、兎殿。怪我はありませぬか?…ああ、美しいおみ足に傷が。こら、早く謝らぬか、佐助」
なにが起こっているのだ。事態を把握できない。
俺は兎で、こいつは狼で、俺を追いかけていた狐とは知り合いで。
なのに、なぜかこいつは俺の前にひざまずいて足を撫でている。ぐらり、と傾いだ上体をたてなおすため、慌てて目の前の肩に手を着く。
…目の前の、肩に。
「!!」
自ら狼に抱きつく、なんて!
慌てて手を離せばまた上体がぐらり、揺れる。勢いよく離れたために自分では上体を支えられない。そのまま後ろに倒れる、と思ったけれどぽすん。何かが背中に当たってどうにか助かった。
「もー、何やってるの。危ないでしょ」
「あ、Sorry…」
………ん?
しかるような口調に反射的に謝ってしまったけれど、今現在、この場所にいるのは。
「!!!」
俺の背を支えているのはさっきまで俺を追いかけていた狐で。
すっと血の気が引くのがわかった。ばか、ばか、俺のばか!ああ、もう逃げ場がない。狼に足をとられて、狐に後ろをとられて。死んでしまう。きっとこういう作戦だったんだ。狼と狐はグルで、俺を二人がかりで食べてしまうんだ。
「あー、ほんとだ。傷できちゃってる。ごめんね、兎さん」
「っ」
頭の中をぐるぐる巡る想像にすくんでしまい混乱状態の俺を気にせずに、背後からひょいと狼に捕まれた俺の足を見た狐がしんなりと形のいい眉をひそめる。
首筋に吐息があたる。獣の、狐の、捕食者の、息が。
「…ぅ、…ぁ」
「兎殿?」
ぷるぷると身体が震える。理屈じゃない、生物としての本能が恐怖を訴えてやまない。
「ぁ…ゃ、だ…こわぃ…」
さっきからずっと緊張状態にあった俺の神経はとうとうぷつんときれてしまって、耳を垂らしてめそめそと泣き出してしまった。かっこ悪いとか、みっともないとか、そんなこと考えてられない。怖くて怖くて、もう、意地を張る余裕すらなくて。
「こわい…よぉ……っく」
ぼろぼろと涙を流すしかできなかった。
「…兎殿」
狼が困ったように俺を呼ぶ。
「ねえ、泣かないでよ兎さん」
狐も困ったように俺の頭を撫でる。
でも、それでも、怖くて。
「うぅ…っ…ゃあ…」
泣き続ける俺はもう自分の感情すらコントロールできない。ただただ、怖いって。そればかりが胸をしめる。
だって、狼も狐もさっきからわけのわからないことばかり言う。わけのわからないことばかりする。
どうして優しくなんてするの。どうせあんたらは俺を食べるんだろ。
だって、俺は兎で。あんたたちは、狐と狼なんだから。
うつむいてしゃくりあげていたら、不意に浮遊感。何が起こったのかわからず、過敏になっていた神経はそれすらも恐怖として受け取りパニックを起こす。
「!?」
慌てて暴れる。ガリ。抗うために振り上げた手が何かに当たった。
「?」
おそるおそる目を開ければ、狼が困ったような、でも優しい目で俺を見ていて。
「泣かないで下され、兎殿。我らは決してそなたを傷つけませぬゆえ」
片腕で俺を抱き上げながら、もう片方の手で俺の目元をぬぐう。笑いかけた狼の頬には小さな傷ができていて、それは俺が暴れたときについたものだとすぐに気がついた。
ぐるりとあたりを見れば、狐と目が合った。
「俺も、兎さんを食べたりなんてしないよ。追い掛け回して、怖がらせちゃってごめんね」
狐もにっこり笑って、よしよし、とまた俺の頭を撫でる。
「…ほ、ほんと?」
「ん?」
「ほんとに、俺のこと、食べない?嘘吐いてない?俺をだましたりしない?」
じぃっと見つめる。こてんと首をかしげて顔を覗き込めば、狼は笑ってうなずいた。
「もちろんでござる」
その隣では狐も笑ってうなずいている。
にこにこ。明るい笑顔、優しい言葉。
信じてやってもいいかな、なんて。
そんなことを思ったら、さっきまでは怖くて仕方なかった高い体温も獣のにおいもいやじゃなくなって。むしろ、あったかくて、心地よくすら思えてきて。
狼のあったかくて大きな手が頬に残っていた最後の涙をぐりぐりとぬぐう。爪があたらないように、俺を傷つけないようにと気を使ってくれてるのに気づいて、なんだか胸があったかくなった。
「某は真田幸村と申します。幸村とお呼びください。こちらは佐助。猿飛佐助にござる」
「ゆきむら…と、さすけ」
「はい」
「兎さんのお名前も、教えてくれる?」
確かめるように名前を呼んだら、二人とも、ほんとうに嬉しそうに笑ってくれたからなんだか俺も嬉しくなった。ぺしょんと垂れていた耳もまた元気になって。俺も、ちょっと笑った。
「…政宗」
「政宗殿。いい名前でござるな」
「これからよろしくね、政宗」
幸村と佐助が俺のほっぺたに唇をちゅ、と寄せた。
食べられる!とちょっと思って肩がびくってしたけれど、それだけで二人は離れていって、二人が触れた場所はなんだか暖かくてくすぐったくて。
怖がってしまったお詫びと、これからよろしく、という意味を込めて俺も二人のほっぺたに順番にちゅってしたら二人ともすごくすごく嬉しそうに笑ってくれて、なんだか俺も嬉しかった。
だからついでにごめんなさいの意味も込めてさっき傷つけてしまった幸村のほっぺたもぺろぺろなめたら、幸村はもっと嬉しそうな顔をして、佐助はうらやましそうにそれを見てた。
…佐助も幸村のほっぺたをなめたかったのかな?
こわくなんてないよ
ただ君と仲良くなりたいだけなんだ。
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