・現代設定
・元親と、政宗と、元就の話
・転生しており、三人とも記憶アリ
・大学院生元親、大学生政宗、大学講師元就









「また、毛利があんた見てるけど相手してやらないのか?」


 大学の食堂。昼飯時を微妙にはずしているからか、人はまばらで席にもいくらかの空きがある。遅い昼食を終えた元親と政宗は、それぞれ空になった食器の乗ったトレーをわきに寄せたまま雑談に花を咲かせていた。
 理工学部の院生である長宗我部元親と、経済学部の3回生である伊達政宗は、政宗が大学に入学して以来の親友だ。悪友と言い換えてもいい。入学式を終えて講堂からできた政宗に元親が声をかけたのが二人の出会いだった。元親曰く「こいつとは馬が合いそうだと思った」とのことだ。元親の面倒見のよさは大学内では有名な話だが、入学式を終えたばかりの何も知らない新入生が180センチを超えるような大男、しかも銀髪に眼帯という明らかに普通ではない様相の男に声をかけられ警戒するでもなく意気投合したという事実に周囲は不思議そうに首をかしげる。実際、後に何人かの人から「怖くなかったのか」「逃げようと思わなかったのか」「通報しようとは考えなかったのか」等と聞かれたりもしたのだが、政宗本人は「こいつとなら気が合いそうだから」とあっけらかんと答えるのだった。兎も角、そういった経緯を経て面倒見と気風のよさから「アニキ」と慕われる元親と、妙なカリスマから人に慕われ「筆頭」などと呼ばれる二人の友情が始まったのだった。
 と、ここまでは、大学内でも有名な話だ。だが、この話には本人たちしか知らない続きがある。実はこの二人の関係はもっと根深いものなのだ。というのも、二人とも妙な話だが所謂「前世の記憶」というものを持ち合わせているのだ。共に、戦国時代の武将であった。とはいえ、二人は奥州と四国、それぞれかけ離れた場所にいたため、然程親しいわけではなかった。彼らの接点といえば共通の友人である徳川家康の存在ぐらいのものだった。そのため、前世での二人は家康を介して互いの様々な話を聞いたり、片手の指で足りる程度に顔を合わせた程度の関係だった。それが今生ではこのように親しい友人になったのだから、なんとも不思議な縁である。

「あんた、俺を見つけたときはすぐに声かけてきたくせに、どうして毛利のことは無視するんだ?」
「おまえに興味があったんだよ。昔からな。昔から、あんたとなら仲良くやれそうだと思ってた。せっかく、しがらみがなくなったんだ。こんなチャンスを逃すのは勿体無いだろう?」
 面白そうに元親を睥睨する政宗に、元親もニヤリと笑って返す。親しくはなかったものの、前世から互いに互いを気性の似た相手として、仲良くやれそうな男だと認識していたのだ。国やら天下やらのしがらみがなくなった今、せっかく再会できたというのに仲良くしない手はない。
「Ha、あんたの意見には俺も同意するけどな。質問には答えてないぜ」
「あー…誤魔化されてくれないのが、おまえの嫌なところだよな」
「観念して、キリキリ吐いちまえよ」

 ニヤニヤ笑う政宗と、顔をしかめる元親。彼らが先ほどから話題にしているのは、この春から法学部の講師として元親たちの通う大学に赴任した毛利元就という男のことだ。既に一般教養の単位は足りている政宗も大学院生である元親も、学部の違う元就の、ましてや外国の法律に関する講義などは取ってるわけがない。そのため本来なら新しい講師が着任したことすら知らなくて当然なのだが、生憎と元就も前世の関係者であり、しかも元親とは浅からぬ因縁がある仲であるためその存在に気付かないわけにはいかなかったのだ。それはあちらも同様であるらしく、構内ですれ違ったり、今日のように食堂に居合わせたりすれば鋭い視線を向けてくる。そういった態度から、元就には前世の記憶、少なくとも元親に関する記憶があるのは明白なのだが、元親は素知らぬ顔でやり過ごしている。そして当然、元親の隣にいる政宗にも元就の刺さるような視線は向けられるのだが、政宗は元就とは、元親以上に縁が薄かった、どころか接点を探すことのほうが難しいような関係であったので、元親が関わらないようにするのであれば、積極的に関わりに行く必要を覚えない。さらに言えば、前世ではどちらかといえば敵対する間柄であったことと、部下を捨て駒扱いする様子、ついでに付け加えるのなら日輪とザビーに対する信仰の様子などからあまりいい印象を抱いてはいない。そういう意味で、政宗は元就に対する興味はあまりないのだが、きっぱりした気性の元親があえて元就を無視する理由には存分に興味がある。
「なんつーかよぉ」
「おお」
「俺、今に前世のことってあんまり持ち込みたくないんだわ」
「Ha?俺に声かけておいて今更言うか?」
「あー…いや、そうじゃなくて、なんつーか…前世の関係?っつーか、感情、っつーか…」
「何、わけわかんねえことブツブツ言ってんだよ」
「俺と元就って、結構いろいろあったからよぉ。俺、あいつのこと嫌いだけど嫌いじゃねえからなぁ」
「…わけがわかんねえ。もっとわかりやすく話せよ、馬鹿チカ」

 どう言えばいいのかわからないのだろう、元親はぽりぽりと頬を指でかきながら言葉を捜すように視線をさまよわせる。そのついでに、さりげなく食堂内に視線を走らせるが元就の姿は既にそこにはなかった。ため息混じりに視線を戻せば、爛々と輝く目で政宗は元親の言葉を待っている。
(物見高い猫かよ…)
 どうやら逃がしてはくれなさそうだ。






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