・戦国チカダテ
・シリアス
元親の力強い腕に抱き取られ、政宗は広い胸に身を預け肩に頬を摺り寄せながら目を伏せた。
叶うはずのなかったこの思い。
どうして叶ってしまった。どうして手を取り合ってしまった。どうして、どうして出会ってしまったんだ。
一度知ってしまったこの甘さを政宗は手放せない。
こんなに極上のお宝を元親は手放せない。
でも、だからといって。
奥州と、四国。
それぞれにそれぞれの夢と守るべきもの。
どうして、一緒に生きてゆける?
ともに生きてゆくには遠い距離。でも、あきらめてしまうには心が近づきすぎてしまった。
「政宗」
そっと、元親を見上げる。知らず知らずのうちに縋るような目になってしまっていることに政宗は気づけない。つり上がり気味の猫目が不安に潤んでいて、たまらなく愛しい。
海賊が舵を取られるとは情けない。内心自嘲しつつも、やっぱりこの宝を、生涯で最高の宝を手放せるはずなどなくて。
潤んだ目元の、今にも零れ落ちそうな雫に唇を寄せる。そのまま額、頬、鼻の先、唇の端、と順に口付けを落とす。
たったそれだけで哀しげに伏せられた目元が幸福そうに蕩けだすから。
どこにもいけない恋だとわかっていた。
何も生まない愛だと知っていた。
それでも、どうしようもなくいとしくて。
「おまえを、攫っちまいてえよ」
心だけではなく、その身体ごと、おまえを。
「バーカ」
強気な言葉とは裏腹な表情。
「おまえなんかが攫えるほど、独眼竜は安くねえんだよ」
ともに、行きたいのに。
ともに、生きたいのに。
本音を隠した言葉遊び。
いつだってほんとうに伝えたいのはそこに隠れた気持ち。
「…そうか」
切なさを隠して微笑む鬼に手を伸ばし、政宗は腕を伸ばして首筋にすがりつく。
「元親」
戯れのような、拙いキス。
「…いっそ、鬼に喰われてしまえればいいのに」
小さなつぶやきを聞きたくなくて、鬼は竜にかじりつく。
「ん、っふ…ぁ」
深い口付けはすべてを奪い合うようであり、与え合うようでもあった。
(このまま、時が止まれば…)
思い通じ合って愛し合って、しかしこれ以上はどこにもいけない恋。
どこに行き着くのかもわからない、新月の夜の航海のような手探りの恋。
ああ、でも。
それでも思い切れないのだから性質が悪い。
由良の門を 渡る船人 舵を絶へ
行方も知らぬ 恋の道かな
旧拍手お礼文2009.12.18〜2010.10.2
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