「俺のものになれよ、独眼竜」


武芸は体格によって勝敗の決まるものではない。だが、褥に押さえつけた政宗の思いがけない細さに元親は身体の熱が煽られるのを感じた。征服欲、と言ってもいい。力づくで押さえつけられてなお、挑発的な光を失わない対の隻眼は嗜虐新を煽る。

「なぁ…」
首筋に舌を這わせ、歯を立てる。
「っ…」
夜の闇に微かに漂う血の匂い、わずかに差し込む月光が背徳的な気分を高める。
「政宗…」
そろりと白い首筋ににじむ血をなめあげれば、息を呑む声。
それに気をよくした元親がもっと、と更なる行為を求めて着物の隙間から手を差し込もうとしたところで、政宗はようやく元親を止めた。
「…おいたはここまでだ」
「ここまで許しといてお預け…っつーのはちょっくら性質が悪くねえか?」
「文句言うなよ。むしろここまで許されただけでも光栄だと思え」

無理強いするつもりも力づくでどうこうするつもりもない元親はお預けを食らった犬のようにすねた様子で、褥に押し倒したままの政宗をぎゅっと抱きしめながら文句を言う。
その銀髪を撫でてやりながら小さく笑う政宗は傲慢なせりふを吐きながらも目元はやさしく緩んでいる。
「あんたのことは気に入ってるけどな、そう簡単に食えるほど独眼竜はお安くねえんだよ」
「西海の鬼が相手でもご不満かい?」
「まだ足りねえな。…どっちにしろ、明日の朝には俺はここを立つ。馬に乗れなくなったら困るだろ。ばれたら小十郎に殺されるぞ、あんた」
「…」

怒り狂う竜の右目を想像して、その恐ろしさに軽く身震いした元親は渋々といった体で身体を離す。
「ここにいたら治まるもんも治まらないからな…部屋に戻るとするか」
「元親」
「どうした…、って、んっ」
不意打ちで仕掛けられた口付けに目を白黒させていると、すぐに離れた政宗が挑発的に目を光らせながら婀娜っぽく口端をあげて笑って見せた。
「次会うときまでにはもっといい男になれよ、西海の鬼。この俺が自分からすがりたくなるような、な」

挑発的な声、まなざし、表情。けれどその頬が赤く染まり、緊張のためか指先がわずかに震えていることに気づいてしまえば生意気なその態度すらかわいらしい以外の何者でもなくて。

「了解。俺以外目にはいらなくなるほど、惚れさせてやるよ」

笑いながら頬に口付けを返せば、ますます赤くなるのがなんともいとおしかった。







初心なくせに負けず嫌い。
旧拍手お礼文(2010.10.2〜2011.9.27)




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