・現代
・元親(大学院生)×政宗(大学生) 元親の方が四歳年上





 目が覚めて、隣に誰かの体温があるというのは案外悪くない物だ。身体の関係だけの相手なら今までにも幾人かいたが、一緒に朝を迎えた事なんてなかった。これは新発見だ、と変な関心をしたところで、いやしかし、と思考を反転させる。これは誰の体温でもいい、というわけでもない気がする、と冷静に考えていると、俺が身動いだことで冷たい空気が布団に入ってしまったのだろう、政宗がむずがるように眉を寄せ、ついでに俺にすりよってきた。
(猫みてえ)
 軽く抱き寄せて、ついでに髪をすいてやると、予想通り柔らかい毛は手に気持ちいい。先ほどまでの考えを訂正する。立場に関係なく、相手が政宗だから、だろう。恋人でも悪友でも後輩でもいいが、とりあえず、今現在、政宗は元親が最も気を許している相手であるのは間違いないのだ。こうして眠っている政宗は普段の生意気な色が消えて、元来の顔立ちの良さと、少しの幼さが目に付く。それをかわいいとは思うが、キスしたいだとか抱きしめたいだとか、襲いたいだとか、そういう欲はわいてこない。あえて喩えるならば、人慣れしない野良猫に懐かれたかのような心地よさがあるだけだ。だが、それだけだとしても、元親にとっては新鮮な感情だった。
 しばらくもぞもぞと身動いでいた政宗はどうやら収まりの良い場所を見つけたらしく、無防備に眠っている。枕元の時計を見れば、まだ7時過ぎだ。今日は5人とも学校が休みだから、当分誰も起きてこないだろう。ちらりとベッドの下に視線を向ければ、豪快な寝相で眠りこけている幸村がまず目に入る。次に、俺たちの飲み会では過去最高なのではないだろうか、という数の空き缶。そしてそれに埋もれるようにして眠っている猿飛。苦悶の顔をしているのは、のんきにいびきをかいている慶次の頭が腹に乗っているからだろう。
 そういえば、あの後佐助は自棄のようにやたらと飲んでいた。で、結局、詳しい事情がわからないなりに、俺と政宗がくっついたことを慶次がなぜかやたらと喜んでいた。あいつは、俺たちの間にあるのが恋ではないのだとわかっているのだろうか。いや、あいつにかかればすべて恋になるのかもしれない。満面の笑みの慶次は祝杯だといって、なぜか買ってきていた日本酒の一升瓶を開けて佐助に飲ませていた。

(そういやあれ、全部飲んだのか…?)
 部屋をぐるりと見渡せば、お目当てのものは簡単に見つかる。ワンルームはこういうとき、部屋の全体を見るのが楽でいい。家主の特権で、ベッドを使っているおかげで寝そべっていても視線が床よりも高いのも、役に立っているだろう。
(おいおい…)
 瓶は、空にはなっていなかった。空ではなかったが、残りは底に数センチあるかどうかだ。元親自身は、あの後、梅酒を一杯飲んで寝てしまった政宗がしがみついて離れなかったのでそんなに多くは飲んでいない。ということは、おそらくあのほとんどを佐助と慶次が飲んだのだろう。ザルの慶次は放っておいても心配ないが、佐助は大丈夫だろうか。二日酔いになったとしてもそれは自業自得だが、この部屋で吐かれたら困る。
 缶酎ハイ半分で酔っ払ってしまえるほど酒に弱い幸村は、どうせ目が覚めてもこの部屋に充満する酒のにおいだけで気分が悪くなるかもしれない。などと考えながら部屋を眺めていたが、政宗がくっついている半身が温かくて、なんだかすべてがどうでもよくなってきた。眠い。だめだ、もう一度寝よう。というか、もともとそのつもりだったんだった。目が覚めたら、元気だろう慶次あたりに片付けを手伝わせて、できたばかりの料理上手な恋人に雑炊でも作ってもらおう。冷やご飯のストックぐらいはあったはずだ。
 そんなことをつらつら考えながら、元親もあっさりと眠りの世界に戻っていったのだった。





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