Happy? Halloween!
「Trick or treat?」
目の前の天然パーマの男は、普段のだらけた服装のまま、いきなりやってきて俺に手を差し出してそう言った。
「…………もう一回言ってくれ」
確実にこの国のものではない言葉で言われたため、なんと言っているのかわからなかった。
「Trick or treat?」
ニヤリと笑って、目の前の男…坂田銀時は繰り返す。
「………とりっくおあとりーと?」
とりあえずその言葉を俺が聞き取れた範囲で繰り返してみた。
一体、この言葉に何の意味があるのだろうか。さっぱりわからない。
「そう。だから、くれ」
「銀時、主語が抜けている。それでは何をくれと言っているのかわからない」
そう言うと、少し考えた後にもう一度銀時は繰り返した。
「Trick or treat?」
やっぱり、意味がわからない。首をかしげると、銀時は一度ため息を吐いてから口を開いた。
「Trick or treat、お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、って意味だよ」
「そうなのか…」
先ほどから繰り返された言葉の意味は、わかった。だが…
「なぜ、俺がおまえにお菓子をやらなきゃならないんだ?」
そうたずねると、銀時は一瞬目を見張った後、笑った。
「ヅラァ、今日は何日だ?言ってみ」
「ヅラじゃない。カツラだ。10月の…30日、か?」
もうすぐ10月も終わりだ。10月が終わって11月に入ると、とたんに冬、といった感じになる。まあ、これは俺のイメージでしかないかもしれないが。
だが、冬はきらいじゃない。
特に、雪の積もった真っ白な世界が好きだ。
「で、10月30日といえば、当然あの日だろーが」
銀時が、そう言って俺に手を差し出す。
「…あの日?」
が、俺にはまったく心当たりもない。
しばらく考えてみたが何もわからなかったので降参して聞くことにした。
「なにかあったか?」
その言葉に、銀時は思い切り脱力した。
「ヅラぁ、そりゃないだろーが…。10月31日っつったら、ハロウィンに決まってるだろうが」
ハロウィン…そういえば、聞いたことがある。10月31日はお化けやなんかの仮装をして家を廻り、お菓子をもらうのだ。異国のお祭りだ。
「そういえば、そんなものもあったかもしれないな…」
そうつぶやくと、
「おいおい、そりゃあねーだろうが。この寒い中わざわざ来たんだぜ」
言うが、銀時は仮装どころかもろ普段着だ。それに…
「普通は、子供がやるものじゃないのか?おまえの年齢ならお菓子を与える側だろう」
俺の純粋な疑問に対して銀時は、真剣な顔で言った。
「ヅラ、男ってのぁ、永遠に子供なんだよ」
「………その理屈で行くと、俺もまだ子供なのだが」
ぼそりと反論すると、銀時はこちらを見た後、ふっと笑った。
「20歳こえれば誰だって大人なんだよ」
言っていることが、さっきと滅茶苦茶だ。
「大人ならお菓子を与える必要はないな」
「……………………銀さん限定で永遠の少年なんだよ」
そのわけのわからない、しかし実に銀時らしい理屈に我知らず微笑みながら、銀時に背を向けた。
「なんだよ、ヅラ、菓子くれねーのかよ。…イタズラするぞコラ」
背後から抱きしめられ、耳元で囁かれる。
「…っ!」
真っ赤になっているだろう顔で銀時を振り返ると、ニヤリと笑うのが目に入った。
「イタズラするぞ?」
「……何か菓子はあるだろうから、とってくる」
そう言って腕の中から抜け出そうとすると、あっさりと手を離して銀時は言う。
「あらら、残念。別にイタズラでも俺はよかったんだけどよォ」
「…………」
言葉を返すのも馬鹿らしい気がして、俺はとりあえず奥に菓子をとりに行った。
「〜〜〜っ」
菓子を手に部屋へ戻って、思い切り脱力した。
「なぜ、この短時間で寝れるんだ…。というか俺が戻ってくるのはわかっていただろうに…」
思わずひとりごちるが、つい寝ている銀時を気遣って声を潜めてしまう。
「………」
そういえば、こいつの寝顔を見ることはほとんどない。
自分もそうだが、彼も気配に敏感なのだ。誰かが近くにくると目が覚めてしまう。それも当然だ。戦場でのんきに居眠りこいていたらそのまま永遠に眠らされる羽目になる。例え仲間だとわかっていてもよほど信頼している人物でなければ熟睡できなかった。眠ってもその眠りは浅く、死んでいった仲間たちの夢にうなされた。今でも、昔の夢を見てはうなされ、飛び起きる。
数ヶ月前の春雨の事件の時、うなされる銀時を見て彼もまた同じなのかと思った。その時に、過去の幻影にうなされるのは自分だけではないのだと妙な安堵感を覚えた。それと同時にうなされるコイツを見たくないとも思った。
「平和そうな顔をして……」
その平和そうな寝顔を見ていたら、つい言葉がこぼれてしまった。
スースーと思い切り平和に寝息を立てている。自分の前で眠ってくれるのが信頼の証のような気がしてうれしいけれど、でも自分がいるのに眠っていると言うのは存在を無視されているような気分にもなる。
「………腹が立つな」
手を伸ばして、天然パーマの銀髪に触れる。短いために手にふわふわと触れ、少しくすぐったい。
この銀色の髪の毛は、好きだ。自分の真っ黒な無個性な髪ではなく、この銀色の髪は彼らしい個性を現していると思う。
「………」
髪を触ってもおきないので、ためしに鼻をつまんでみる。
「〜〜〜っ!ッハァーーー」
そうしたら、飛び起きた。俺のほうを向いて、抗議する。
「ヅラぁ、何しやがるてめぇ。俺を殺すつもりかああぁ!!」
起きて早々テンションの高い銀時に、さらっと返した。
「ヅラじゃない。桂だ。というか、おまえがその程度で死ぬわけがないだろう」
「俺はデリケートなんだよ。いや、マジで」
「おまえがデリケートなら世の大半の者はデリケートだな」
くすくすと笑いながら、先ほど持ってきた菓子を差し出した。
「ほら」
反射的に受け取ってから、何を渡されたのか気づいたらしく笑った。
「おう、サンキュ。ヅラのくせに気が利くな」
「ヅラではない。桂だ。まったく、何度言わせれば気が済むのやら…」
つぶやいていたが、ふと悪戯心がもたげてくる。
「銀時」
名を呼ぶと、与えられた菓子を物色していた男がこちらを見る。
「なんだ?」
「俺には、菓子をくれないのか?」
言うと、面食らったような顔をした男が一瞬考え込むそぶりをして、すぐにニヤリと笑いながら俺に手を伸ばした。
「悪ぃけどよ、菓子は自分の分しかねえんだ。っつーか、人に菓子をやれるほど俺は心が広くねえんだよ」
そこまで言うと、いったん言葉を切って俺に向かって伸ばした手で腕を掴み、思い切り自分のほうへ引っ張る。
「うわっ」
予想していなかった行動に、その勢いのまま銀時のほうへ倒れこんでしまった。
「銀と…」
「というわけで、菓子の代わりにイタズラしてやるよ」
そう言って、銀時はそれはそれは楽しそうに笑った。
「えっ、ちょっ、待て、おい」
「遠慮すんなよ」
「おい、普通はもらえなかったほうがイタズラするものじゃないのか!?」
俺の抗議はサラリと流される。
「おまえはさっき俺の髪をいじってたんだからアレで十分だろ。今度は俺の番なんだよ」
「―!〜〜〜っ、おきていたのか?」
顔が熱い。
「当然。おまえに触られておきないわけがねぇだろう」
してやったり、と言う表情で銀時がうなずく。
「ま、そういうことだ」
そう言いながら、銀時は硬直している俺の唇に軽くキスをした。
「というわけで」
え?と思ったときには、視界がぐるりと変わっていた。
「trickだな」
この後桂がどうなったのか、というのは二人だけの秘密。
食べられたのはお菓子?それとも…?
END?
………スミマセン。まず、最初に謝ります。こんなの桂さんでも銀さんでもありません。別人28号です!あー、それにしてもどうしてこのカップリング書いたのでしょう。好きですけど、大好きですけど、でも書く予定はあまりなかったのに…。でも、ハロウィンネタで思いついたのがこのカップリングだったんですよね。しかも、ものすごくありきたりなネタ…。それなのになんですかこのヘタレな文章!もう、穴があったら入りたい気分ですよ。
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