気分転換
ずっと、ずっと一緒にいられると何の疑いも持たずにバカみたいに信じていたことも、あった――
「ジェームズ。これ、どうするよ」
目の前には大量の課題が。
いたずらの罰として与えられたレポートだ。
今回も、いたずらは当然の如く成功した。が、成功したと同時にいたずらの事実は発覚されてしまうわけで。罰としてこの大量のレポートを言い渡されたのだ。
明日の夕食までに仕上げて提出しなければならない。
もちろん、彼らにとっては容易いことだ。
だが、容易いからといって面倒くさくないということではない。
シリウスは、もう一度うんざりしたような口調で言った。
「あー…やる気、でねえんだけど」
「すばらしい、さすが我が相棒。まさしく僕も同じ気持ちだ」
ジェームズもやる気をひとかけらも感じさせない声で応える。
二人とも、すでに羽ペンを動かしていない…どころか、手に持ってもいない。
「……………」
「……………」
しばらく無言でぼーっと窓の外を見ていた二人だったが、同時に視線を合わせ、ため息をついた。
「気分転換に禁じられた森にでも行くかい?」
シリウスはじっと相棒を見つめた。ジェームズもじっと相棒を見つめる。
そして、やっぱり同時にニヤリと笑った。
「透明マントを持ってくるから机の上を片付けておいてくれ」
「わかった」
先ほどまでとは表情がまったく違う。
生き生きと、本当に楽しそうに目が輝いている。
「待たせたね。行こうか」
「おう」
うきうきと、2人で1枚のマントに。
身を寄せ合って、楽しそうにクスクスと笑いながら。
歩いてゆく。
早すぎず、遅すぎず、自然な速さで。
「シリウス」
「んー?」
楽しそうな表情で振り返ったシリウスの頬に、ジェームズは軽くキスをする。
「…何しやがる」
嫌がるわけではないが、少し低めの声でシリウスが文句を言った。
「何って、キスだよ」
そう言って笑いながら、今度はシリウスの唇にキスをする。
「…」
何を言ってもしょうがないと思ったのか、シリウスも少し口を開いてジェームズを受け入れた。
「ん….」
唇を離すと、二人の唾液が細い意図になって二人をつないでいた。が、すぐにそれも切れた。
照れ隠しをするようにシリウスは少し乱暴に唾液にぬれた唇を手の甲でぐいとぬぐった。
その様子を微笑みながらジェームズは見ていた。
「…さっさと行くぞ」
照れ隠しのようにぶっきらぼうにそう言って、シリウスは歩き出した。
透明マントをひっぱられてジェームズもシリウスの隣を歩く。
「…今更、そんなに照れなくてもいいのにねえ」
シリウスに聞こえないように、ジェームズはこっそりとつぶやいた。
そんな、何気ないいつもの日常が、どこまでもどこまでも続いているのだと、疑いもせずにバカみたいに信じていたことも、あった。
でも、それはもう昔の話。
今はもう、共にと望んだ相手はどこにもいないのだから―――
遠い記憶
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