たとえば、背が伸びたとか剣術が上達したとかそういうことにはすぐに気づくのに。
どうして、俺の気持ちには気づかないんだ。
(俺がおまえを好きだといえば、それは主からの束縛にしかならないだろう)
「如何なさいました?政宗様」
伸ばした手はいとも容易く届く。
そして、振り返って真っ直ぐに俺を見る。
「…終わった」
ぶっきらぼうにそう告げると、強面がわずかに緩んだ。
「お疲れ様でした、政宗様。すぐに茶でも用意いたしましょう」
「ん」
この優しい表情も声も俺だけに向けられるものだと知っているのに、それだけでは我慢できない浅ましい自分がいる。
すっと立ち上がり部屋から出て行く小十郎の背を見送ってから、ごろりと行儀悪く寝そべった。
「shit!」
好きだと言えば、欲しいと言えば、きっと小十郎は惜しみなく与えてくれる。でも、違うのだ。俺が欲しいのは主に向ける忠誠からくる愛情ではなく、片倉小十郎影綱という男が与える愛が欲しい。
(あんだけでかい忠誠心を捧げてくれるんだったら、そのうちの何割かはloveに変えてくれたっていいじゃねぇかよ)
理不尽な要求であるとわかっていても、思わずそう考えてしまう。
(…んなとこが、あいつにガキ扱いされる原因、なんだろうな)
10歳の年の差は大きい。しかも、相手は俺の覚えていないような小さな頃からずっとそばにいてくれる男だ。
何があっても決して見捨てずに、そばで支えてくれた男。
それだけでも俺には身に余るほどだというのに。
いつから、それだけでは足りなくなった?
(I’m a very selfish person…)
「まったく…」
茶と菓子を持って戻れば、気まぐれな竜は行儀悪く寝そべってすやすやと寝息を立てていた。
昔から変わらない幼い寝顔に頬を緩ませるものの、茶をことりと文机においてからしばし考える。
(どうするべきか)
こんなところで寝ていては風邪をひく。しかし、このところの激務で疲れているだろう主を起こすのは忍びないし、かといって寝所に連れて行くのも躊躇われる。否、連れて行くこと自体は問題ないのだが、そこにたどり着くまでの間に他のやつが政宗様の寝顔を見るかもしれない、ということがいやなのだ。家臣にあるまじき醜い独占欲。わかっていても、いやなものはいやだ。
結局、着ていた羽織を気持ちよさそうに眠る主にかけた。
体格の差のおかげで俺の羽織は政宗様をすっぽりと覆う。
「んぅ…、…」
そのことに気をよくしながら手を伸ばして髪を梳き頬に触れると、もぞりと動いて何かを探すように伸ばされた手が俺の手を掴んだ。
「…」
「ん…」
そして、また気持ちよさそうに寝息を立てるのだ。ひどく、無防備な様子で。
こんなに無防備に眠るのは、そばにいるのが俺だから。自分がどれほどこの人に信頼されているのか知っている。そして、その信頼に応えるだけの覚悟もここにある。
だが…。
「そんなに無防備でいられると、いつか襲っちまいそうだ…」
大それたことと知りつつも主に邪な想いを抱く身としては、嬉しいながらも困った状況でもあるのだ。
たとえば、人の悪意や笑顔の裏にならすぐさま気づくというのに。
いつになったら、俺の想いに気づいてくださるのでしょう。
(臣が主に恋情を告げるなど許されるはずはないのだから、早く気づいてください)
It is difficult for me to say I love you
その一言を告げるのはひどく難しくて、結局は他力本願。
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