政宗様は強いお方だ。


遠い昔に失った右目。振り払われた手。断たれた親子の情。

それらに傷つき絶望し、けれど今。
あのお方はすべてを受け入れ国を背負い、揺ぎ無く立ち上がりゆるりと笑う。

『天下を見たいヤツは俺についてこい!』

たったの19歳の、若すぎる当主。けれど我等の心を掴んで放さないお方。
10も年下の青年の、その強すぎる隻眼に魅入られる。



屠ってきた数多の命。そして彼の守る幾千万の命。
常人ならばその重みに押しつぶされてしまうだろう。否、負った命の重みに気づくことすらないものも少なくない。
しかしあの方は、政宗様はそれらをすべて認め受け入れたうえで笑ってみせる。
その強さ、気高さ、尊さ。


右目を失い母に拒絶され絶望を知った。
けれど絶望の中に灯るわずかな光を掴んだあの方は希望を知った。
父である輝宗様を筆頭にさまざまな人から与えられる愛を知り、月日と共に育まれる信頼という絆を知った。
輝宗様を人質に取られどうしようもない状況の中、望まぬ道をも決断する非情を知り、父の死にどうしようもなく悲しむ情を知った。
死んだものはもう戻らぬ現実を知り、復讐の甘美さ、そして虚しさを知った。
戦にゆけば振り返り数多の屍、敵も味方も失われた命の多さを知り、一揆の鎮圧にゆけばそうすることしかできなかった農民の悲しみ苦しみを知る。

そうして歩むすべての道からあの方は数え切れぬほどのことを知り、学び、受け止める。
何一つ無駄にはせず、受け入れて強くなる。


決して癒されることのない、計り知れぬほどの絶望と悲しみをその身に内包して。
けれど、凛とした眼差しに揺るぎもせず前を見据え続ける。
己に厳しく部下に甘いあの方は、逃げることも目をそらすことも自分に許さず、どれほど辛く苦しい現実であろうと甘んじて受け止める。

『大丈夫だ。おまえらは俺が守ってやる』

我等の若き王。
その穏やかな眼差しに奥州の民は惹かれ、ついていく。
そしてそれと同時にこそりと己の心のうちに誓うのだ。
この方が我々を守ってくださるというのなら、俺が、この方を守るのだと。

強く気高く尊く。
すべてを受け入れ前に進む潔さ。
(そんなあなただからこそ俺たちはついていくのです)

この方を守る。
それが、俺の存在意義で生きる意味。
竜が存分に天を駆けることができるように。
そして彼の心が曇ることのないように。
ただ、そのために。



俺は修羅ともなり政宗様を、無二と定めたこの方を守り支えるために刀を振るう。





強い人



守るために強くなったあなたを守るために私も強くなったのです。
2009.11.1〜12.18 web拍手お礼文





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