キミは今でも覚えているだろうか。




幼い日、幼い僕らが交わした幼すぎるあの約束を。








「いつか、オレたちが勝って、世界が平和になったら、一緒に世界中を旅しよう」







言い出したのは、オレだった。







「“いつか”…って、いつ?」

深刻そうに尋ねるキミ。

「わかんないから、“いつか”なんさぁ」

軽く笑ってこたえるオレ。

「でも、“いつか”わからないと、行けない」

硬い声でなおも続けるキミ。

「どうして?」

キミの顔を覗き込んで尋ねる能天気なオレ。

「どうしても」

一瞬だけ泣きそうに歪んだキミの顔。

「…オレと一緒に行くのいやなんさ?」

卑怯な問いかけをするオレ。

「…違う」

予想通り、首を横に振ってくれたキミ。

「じゃあ、約束」

なおも迫るオレ。

「でも、行けないかもしれない」

少しうつむいてつぶやくキミ。

「ん〜?」

首をかしげてもう一度キミの顔を覗き込むオレ。

「“いつか”決めておかないと、オレは行けないかもしれない」

たよりないほどに心細げなキミの声。

「んー…」

腕を組んで考えるオレ。

「…」

沈黙。

「じゃあ、こうしよう」

考えて、出した結論。

「?」

首を傾げるキミ。

「オレたちが20歳になるまでに、絶対に勝って、それで、一緒に行こう」

それがすばらしいアイデアであるかのように笑顔でキミに約束を迫った幼くて愚かなオレ。

「20歳になるまで?」

一瞬驚いた顔をしたキミ。

「そう。オトナになって、ホゴシャがいらなくなるまでに」

頭の中にパンダジジイを思い浮かべたオレ。

「それが、“いつか”?」

ゆっくりと、顔を上げたキミ。

「そう。これで、一緒に行ける」

笑って手を差し出すオレ。

「…うん」

少しだけ躊躇ってそれからしっかりうなずいてオレの手をとってくれたキミ。

「約束、さぁ」

つないでないほうの手の小指を絡めて額をこっつんこ。

「…」

キミの瞳がオレを射る。

「いつか、一緒に、世界中を旅しよう」

「戦って、勝って、世界が平和になって」

「平和な世界を旅しよう」

「二人だけで」

「どこまでも」

「ずっと、ずっと」

「ずっと、一緒にいよう」

幼く愚かで無邪気な残酷な約束。











キミが“いつ”にこだわっていた理由をオレが知るのはもうちょっとあと。

オレたちが現実を思い知らされるのは、そのさらにあと。




これは、御伽噺。

小さな子供が夢見る希望に満ちた御伽噺。

それでも、あの日の約束をオレは忘れていないしキミも忘れていない。

口に出すことはないけれど。

それでも、知っている。





ありえない、手の届くことのない、御伽噺だとわかっていても。




それでも、この御伽噺を信じたいと願っていることを。












幼い日、幼い僕らが交わした幼すぎるあの約束に。
今でもキミはうなずいてくれますか?











戦いに生きている。
だから、一寸先は闇。








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