・戦国サナダテ
・というよりかは無意識片思いな真田
奥州と甲斐の戦が終わり一月がたった。決着のつかぬまま戦は終わり、とりあえずの和解と休戦協定が結ばれた。静けさを取り戻した領内はすでに常の様子を見せている。しかし、幸村は未だにいくさばの熱が抜けきっていなかった。
槍を振るう。横薙ぎに一閃。すぐさま後ろに飛び退きも一方の槍を振り下ろしながら片方の槍は身を守るように構える。
ただの自己鍛錬であり、ここにいるのは幸村一人のはずであるというのにそこに何かを認めているように幸村の視線は鋭く一点のみを見据えている。
幸村が鍛錬をするのはいつものことであるが、先の戦が終わって以来のそれは今までのものとはまったく違うもののようにも見える。
今まではただ敬愛する信玄の役に立てるように、といわば抽象的な目的を掲げて己を鍛えていたものだが、今は幸村の眼に映るのはただ一人だ。ただ、あの人に勝ちたい、と。恨みや憎しみ、ましてや相手を殺したい衝動でもなく、ただただ純粋に、勝ちたいのだ、と。いうなれば具体的な強さへの指標がたったのだ。鍛錬への熱の入り方も強くなって当然というもの。
某の槍をきっとあの方は受け流し、隙を見て斬りつけようとする。それより先に飛び退いて体勢を崩したところを…。
たった一人を思い槍を振るう。
信玄の役に立ちたい。
幸村がずっと心に抱いていた強さへの渇望の原点すら今は遠く、ただただ一人のみが心を占める。
「旦那!もうずっとやってるでしょ。いい加減休憩しないとへばっちゃうよ。ほら、お八つに団子持ってきたから」
大きく一閃。鋭く突き出された槍の先は人の首の高さにある。いくさのときのようにギラギラと燃える瞳がその何も無いはずの虚空をにらんでいる。
しばらくその姿勢で静止した後、幸村はすっと槍を引いた後、礼をした。本当に、誰かがそこにいるかのように。
(すいぶんはまっちゃって…)
自分の仕事が増えなければいいんだけど、とため息を吐きつつ佐助は立ち去る。
めんどうごとはごめんだといいつつも、主が夢中になれるものを見つけられたことは純粋に嬉しいのだけれど。
(…あつい)
佐助が用意してくれた手ぬぐいで汗をぬぐいながら幸村は収まらない身体の熱に困惑する。
いくさばでどれほど燃え奮え、昂ぶろうともいくさが終わってしまえばすっとその熱は冷めていたというのに。どんなに長くとも三日も続いた熱はなかった。
しかし幸村は戦が終わって一月がたつ今となってもあのいくさばの熱を忘れられない。絶えず身体の奥に燻り、胸を焦がす。
「…」
まぶたの裏によみがえる鮮やかな雷光。
そう、幸村にはあの人が光に見えた。強く容赦のない、けれど惹かれずにはいられない鮮烈な光。
強いものならいくらでもいる。しかし、あれほどまでに強烈に幸村を惹きつけるものは他にない。
一目で魅かれた。ずっと彼に目を奪われ続け、刃を重ね、胸は高鳴り心は昂ぶり、この瞬間が永遠に続けば、と。
『次に会うときまでこの勝負、預けておく。それまで俺のこと忘れるんじゃねえぞ、真田幸村!』
もう一度、会いたい。会って、戦いたい。
いや、戦うだけではきっと足りない。
でも、いったいどうしたいのか。自分でもわからない。
会いたい。
ただ、会いたい。
そうすればこの不可解な感情も冷めない熱の意味もわかるはず。
「伊達…政宗、殿」
それにしても、嗚呼!
こんなにも燃える心を、消えない熱を、昂ぶる感情を知らなかったかつての自分はなんと暢気な日々を送っていたことよ。
あひ見ての のちの心に くらぶれば
昔はものを 思はざりけり
旧拍手お礼文2009.12.18〜2010.10.2
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