その生き様を。
その信ずる道を。

どうか、曲げずに最後まで走ってほしい。

俺は、そんなおまえだからこそひかれたのだから。





ふりかえらずに、すすんでください




二人の道が分かれることなど、知っていた。
そもそも、初めから俺たちは敵同士。その道が重なることなど、ありえない。ほんの一瞬、交わったことこそが奇跡のようなめぐり合い。

俺たちが二人、一緒にすごした時間に意味はあったのだろうか。

こうして、最初から最後まで敵にしかなれなかった俺たちの、あの嘘のような穏やかな時間に、意味はあったのだろうか。
偶然を装った必然を重ねて、いくさばの外での互いを知り、ともに笑った瞬間。
かつてないほどにひかれて、欲して、それでも、どうしてもその想いに名前をつけることができなかった。
(だって、おまえは敵じゃないか)

そこにある道は、決してひとつきりではなかった。
もっとたくさん、あった。
そのうちのどれかには俺たちが一緒に生きることができる道もあったはず。
だけど。
それでも。
俺たちはこの道を選び、ともに在ったかも知れない未来は永遠に失われた。

それを後悔してはいけない。
俺が背負うのは俺だけの命ではないし、それはおまえにしたって同じこと。個人的な想いだけで決めることのできるものなど、ひどく少ない。多分、それはこの両の手のひらですくうことができるほどのもの。指の合間から、零れ落ちてしまうほどのもの。
(そうして、この手にのこるのはどれほどのものだろう)


(それでも、なあ、真田幸村。あの瞬間、俺は、多分、幸せだった。ほかのどんな瞬間よりも)

何をしたわけでもない。
ただ、一緒にわずかな時間をすごしただけ。
他愛のない話をして、穏やかに笑いあっただけ。
そんな瞬間に、滑稽なほどの幸せを覚える自分がいた。





ああ、もういくさが始まる。
きっと、これが最後のいくさ。
勝ち負けなど最初からわかりきった、それでもこの国のすべてを巻き込んだ、最後のいくさ。

(待ってろ、真田幸村)
たとえ己の属する軍は負けるのだとわかっていても、きっとあの男は最後まであきらめない。
最後まで、誰よりも強い瞳であの二槍をふるい続ける。
紅蓮の鬼の異名に負けぬほどの強さで、まわりを圧倒し続ける。
(periodを打つのは、俺だ)
時の権力者に疎まれているあいつは、たとえこのいくさが終わったときに命あったとしても生きながらえる術など与えられない。
もとより、あいつ自身がそれを望まない。
だから。
どの道を選ぼうとも失う命なら。
(俺が、もらう)
ほかの誰にも、あんたを、あんたの命を、魂を、わたさない。




「待たせたな、真田幸村」
「はい。お久しゅうござりますな、独眼竜…政宗殿」
あたりには、数え切れぬほどの屍の山。
元来の赤揃えを更に赤く染めた男。
「俺たちは、あまりにも時間をかけすぎた。これが、last danceだ。curtain callはもういらねえ」
一刀だけ抜いた切っ先を、まっすぐにつきつける。
「どうか、決着を。終わらない戦いに終止符を」



「「いざ!!!」」









どうか、おまえはその強い瞳のまま信ずる道を進んでほしい。
どうか、どこまでもおまは強く大地を蹴って走ってほしい。

どこまでも。

どこまでも。

この大地のすべてがおまえのもの。
果てのない世界はおまえのもの。
限りない未来はおまえのもの。

どうか、どうか。

かなうのなら、その心の片隅に覚えていて欲しい。
ともにすごした、あの時間を。
幸福だった、あの瞬間を。



(それでも、どうしても、「好き」の一言が言えなかった。俺も、お前も)








出会ったことを、後悔はしないけれど。



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