・現代サナダテ
・キスしかしてないけど雰囲気が破廉恥…かもしれません。いや、どうだろう。
政宗の肌は白い。
白い肌には閨で咲かせる赤い華がよく映え、それは幸村の独占欲をよく満たす。政宗自身でも気づかぬようなところにこそりと跡をつけ、楽しむのが最近の気に入りだ。
政宗が、幸村のものであるという刻印。
(政宗殿は、某のものだ。誰にも…わたさぬ)
「…」
幸村は政宗の細く白い腕の内側にそっとつけられた紅い跡をじっと見ていた。
その視線に気づいているのかいないのか、政宗はドライヤーで髪を乾かしている。平生は長袖の服を好む政宗であるが、流石に湯上りには半袖のTシャツを着る。それゆえ、幸村にはその紅い跡がはっきりと見えた。
(かようなところにつけた覚えはござらぬ)
昨夜の記憶をたどってみる。鎖骨のあたりに跡を残して怒られた記憶はあるが、そんなところに跡をつけた記憶はまったくない。
それは、つまり。
(某以外の者が政宗殿に…跡を…)
幸村は怒りと嫉妬でふつふつと熱くなるのを覚えた。
政宗は幸村のものだ。中学の入学式の日に一目ぼれして以来、長い時間をかけて片思いをして口説いて、大学2回生の今、ようやく手に入れた掌中の玉である。
そんな政宗に、自分以外の誰かが残した跡があることなど耐えられない。
「政宗殿」
「Ah―?」
名を呼ばれ、髪を乾かし終えた政宗がドライヤーのコードをまとめながら幸村を見る。
「!?…何しやが…ッ」
ぐい、と腕を引かれ無防備であった政宗の身体は容易く幸村の腕の中に落ちる。
有無を言わせず手首をつかむ。幸村の手が大きいためか政宗の手首が細いためか、手首をつかめば指があまる。この細さも幸村を煽るものであるが、今はそれよりも。
「いってえええぇぇ!!!」
腕についた紅い跡に歯を立てれば、政宗が悲鳴を上げた。そのまま唇をつけ、吸い上げる。
「んッ…、ゆき、…」
突然の痛みの後に甘く吸われ、日々幸村に慣らされている政宗の身体はそれを快感と受け取り、ぴくりと肩がふるえる。
(かわいらしいことだ)
唇を離して、今度は紅い鬱血を舌でなめあげながら、ちらりと政宗を見れば顔を真っ赤にしてぎゅっと目を瞑っていた。その表情が艶やかでありながらもあまりにかわいらしく、手首をつかんだ手を放さぬまま、幸村は伸び上がって唇に口付けた。
「ふ…ぁ…ッ、ん…」
クチュ、と湿った音がする。それが恥ずかしいのか、政宗はつかまれたのとは逆の手で幸村のTシャツのすそにすがりつく。
「は、ァ…んぅ…っふぅ」
唇をはなし、目の端に浮かんだ涙を舌でぬぐってから政宗の顔を覗き込むと、潤んだ隻眼を向けられた。
「ゆき、なんだよ…?」
腕に残る紅い跡と幸村を恨めしげに見比べ、にらみつけるが涙の浮かんだ瞳でにらまれても怖くない。どころか、むしろそそる。
(誘っておられるのだろうか…)
思わず不埒なことを考えてしまう。
「政宗殿」
ちゅ、と額に唇をよせながらささやく。
「ん」
素直に身を任せる政宗と、自分の跡をつけなおした手首の紅を見て、幸村はそっと笑う。
「政宗殿に、某以外のもののつけた跡があったのが気に食わなかったのでござるよ」
その言葉に政宗が、ぴくりと反応した。
「某の政宗殿に跡をつける輩も許しがたいが…」
とす、と気がつけばソファーの上に押し倒されており、政宗はうろたえた。
「それを甘受する政宗殿も…仕置きが必要にござろうか?」
普段とは違う。夜、政宗だけに見せる雄の顔をした幸村に思わず胸が高鳴る。幸村がこれ以上ないほどに政宗を愛しているのと同様に、政宗も幸村にベタ惚れなのだ。嫉妬されるのは嬉しく、独占欲は心地いい。束縛されるのはきらいだが、相手が幸村ならばそれすら悪くないとさえ思える。
が、しかし。
「だからって蚊にまで嫉妬してんじゃねえよ!!!!」
「!!?!?!!?」
押し倒された状態のままではあったが、政宗のすらりと美しい足は容赦なく幸村を蹴り上げ、政宗は痛みに悶絶する幸村をリビングの床に放置して、すたすたとドライヤーを片付けにいったのだった。
虫刺されの話
こんなやりとり日常茶飯事。
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