しゃくり

口に含んだ甘いアイスクリームは想像通りに冷たくて、暑さにうんざりしていた政宗は口元をほころばせる。
(うまい…)
普段は甘味を自ら口にすることなどほとんどないが、夏のアイスクリームは格別である。暑さに弱いためか、よけいにこの冷菓がおいしく感じる。
アイスクリーム。氷菓子。高利貸しとかけた言葉遊びもあるが、こんなにすばらしい食べ物に対して失礼な話だ。

もう一口。
口を開いたところで、先ほどかじりついたあたりから、ほんの少しだけ溶けかけているのに気づいて慌ててなめとる。アイスを無駄にするなんて神への冒涜だ。神など信じていないけれど。
「んぅ…」
溶けかけたミルクアイスの甘く白いしずくをなめとりながら、先ほどからじっとこちらを見ている幸村にちらりと目をやる。
「?」
政宗をくいいるように見つめている幸村が気になるが、溶けかけるアイスクリームも放ってはおけない。
「ふ、ぅ…んぁ」
とりあえず垂れてきたしずくをなめとり、顔をあげた政宗は唇の端についたアイスを舌でぬぐいながら、幸村を見た。
「どうした?」




棒つきミルクアイスクリーム





どうしたもこうしたも!
幸村は叫びそうになるのを寸でのところでこらえた。
どうしてこの人はアイスをなめてるだけなのにこんなに破廉恥なのだろう。普段は無造作におろされている髪も暑さに負けたのか、後ろでくくっている。幾筋か縛りきれなかった髪が白い首筋にかかっているのが何とも色っぽく、そこを伝う汗すら淫靡に感じられた。
「おまえも食べたいのか?」
幸村の視線を勘違いしたのだろう、きょとんとした顔をして見当違いのことを言ってよこす政宗にくらくらする。政宗は自分がどれだけ破廉恥であるのかもっと知るべきだ、と幸村は常々思っている。自覚のない色気ほど性質の悪いものはない。
「あ、やべ…」
幸村が答えるより先に、またアイスのしずくが垂れてきた。
政宗が赤い舌をよせ、それをなめ取ろうとする。
(ああ、もう、見てられぬ!)

ぐい

これ以上政宗を見ていたらあらぬところが元気になってしまう。昼間から、だなんて、そんな破廉恥なこと!夜から明け方まで励むのは大いに歓迎するが、昼間からことに及ぶのはいただけない。何より、政宗に殴り飛ばされた挙句に今夜は間違いなくお預けにされるだろう。
幸村は自らの理性を守るために政宗のひざに手をかけ身を乗り出し、反対の手で政宗の手をつかみ自分へ引き寄せ政宗の手にしたアイスにかじりついた。
「え…」

白い棒アイスに舌を這わせる政宗、というのは幸村にはいささか刺激が強すぎる。
(なれば、その原因を取り上げてしまえばよいのだ!)
口に含んだアイスは思っていたよりもおいしい。もともとが甘味好きの幸村である。予想以上に甘くおいしい冷菓に当初の目的も忘れて夢中になってかじりつく。

「え、…あ、…ゆき…?」
その間、手を握られっぱなしの政宗はどうすればいいのかわからず戸惑ってしまう。
着々と減っていくアイスも気になるが、思いがけず至近距離で見ることになった幸村の、普段は気にも留めない整った顔立ちにどきどきしてしまう。
政宗は幸村の明るくて元気なところや、ころころ変わる表情がかわいくて気に入っている。しかし、アイスにかじりつく瞬間の目元を伏せた表情は本来の幸村の精悍な顔立ちと相俟ってなんともいえぬ色気があった。
(つか…やばいだろ、この距離…)
日常生活ではありえない至近距離にある幸村の顔が気になってしょうがない。奔放なように見えて意外に恋愛ごとには奥手で初心な政宗は、そういったギャップに非常に弱い。

「…政宗殿?」
「ゆき、むら…」
何の反応もない政宗を不思議に思ってふと顔を上げれば真っ赤になって戸惑っている姿が目に映る。
「あ…」
そこでようやく政宗の手を握り締めたままであったことや互いの顔がとても近いことに気づいた幸村は、政宗に負けないくらい顔を赤くする。
「ゆき…」
恥ずかしそうな困った顔で幸村の名を呼ぶ政宗がとてもいとしくてかわいくて。
「まさむねどの…」

触れ合うだけのキス。
すぐに離れて顔を覗き込めば目が合って、二人とも小さく笑いあって。
もう一度、今度は舌を絡めて口付けて。


重ねられた手に忘れられたアイスが溶けて伝うけれど、そんなことは口付けに夢中になる二人にとってはどうでもいいことで。



夏の暑さは、まだまだ衰えを見せない。






アイスよりも甘い熱い口付け。

よるべ様に頂いたイラスト(頂き物ページに掲載)に勝手にお話をつけてしまいました第一弾。素敵な妄想を下さったよるべ様のみお持ち帰り自由です。




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