テスト直前カウントダウン七題
お題配布元→jachin





1. テスト7日前。寝てる場合か。

「…おい、幸村。おまえ、寝てる場合か」
「はっ、す、すみませぬ」
「次のテストで赤点とったら夏休み返上で補習になって、部活の大会にもでれなくなるんだろーが」
「そ、そのような状況にならぬためにも、某を見捨てないでくだされえぇ」
「ったく…言っておくけどスパルタだからな、俺は」
「は、はいっ」
「俺が教えて赤点とったら承知しねえからな!」
「はい!」
「…補習なんかのせいで夏休みに俺にかまえなくなったらもっと許さないからな」
「ま、政宗殿…っ」






2.テスト6日前。ここは抑えておけよ。

「A whale is no more a fish than a horse is」
耳にここのよい声がスラスラと流暢な発音で英語を紡ぐ。
「A is no more B than C is.…AがBでないのはCがBでないのと同じだ。この構文は重要だからな」
サラサラと紙にペンを走らせて流麗な文字でつづられるのは味気のない構文であるはずなのに、この人が書いているというだけで何か特別な暗号のように思える。
「ここは抑えておけよ」
白く細い指がトントンとその上をなぞり、勉強するときにだけかける細いフレームの眼鏡の向こう、切れ長の瞳が幸村を射抜く。
「Are you OK?」
この人のすべてに夢中で勉強どころじゃない。




3.テスト5日前。ちょっと早いご褒美。気を抜くな。

「できました!」
基本問題の説明をし、いくつかの公式を教えて練習問題を与えてから30分。かけられた声に読んでいた教科書を置いて顔をあげる。
「問3と問7が少し不安なのですが…」
待てをくらった犬のようにおとなしくしながらもそわそわと落ち着かない姿に内心笑いながら、赤ペンを走らせる。
「どうでしょう」
上目遣いでこちらをうかがうのは卑怯だろう。プリントを返してやりながら幸村、名前を呼んで身を乗り出す。
ちゅ
「ま、ま、ま、政宗殿!?」
顔を真っ赤にして慌てふためくコイビト。
「頑張ってるからな。ちょっと早いご褒美だ。気を抜くなよ。本番はまだ先だからな」
幸村に返されたプリントには九つの○と一つの×。





4.テスト4日前。ヤマなんて張るな、外すから。

「世界史の範囲がひろくてとても覚えられませぬ!」
「Ah―…」
「政宗殿は、どのへんが出るとお思いになりますか?某は、」
「Stop、幸村。ヤマなんて張るな、外すから」
「…」
「こういうのは満遍なく出されるもんなんだから諦めて覚えろ」
「政宗殿ぉ」






5.テスト3日前。今更泣き言言っても、遅い遅い。

「あと三日で終わる気がしないでござる…」
目の前にちらばるプリント、教科書、ノートについつい弱音を吐いてしまう。普段、部活にばかり精を出している幸村はもともと頭よりも身体を動かすほうが得意なのだ。
「Hey、奇遇だな幸村。俺もそう思うぜ」
慰めるどころかあっさりと肯定した政宗も少々げんなりした顔をしている。恋人との楽しい夏休みのために労力は惜しまないものの、幸村にもわかるように丁寧に説明するのは政宗にとっては難易度の高い応用問題を解くよりも難しいことだった。
「ううぅ…」
自分への不甲斐なさと政宗への申し訳なさ、そしてやっぱり目の前に広がる課題の山に低くうなりを上げ、力なく机に額をぶつける幸村に、政宗は小さく笑った。
「ま、今更泣き言言っても、遅い遅い。腹くくってやることやれよ」
ぽん、と幸村の頭を軽く叩いてから立ち上がる。
「政宗殿?」
離れる気配に顔を上げれば、キッチンへ向かう政宗の後姿。
「頑張ってるdarlingに夜食でも作ってやるよ。だからいいコでその課題終わらせちまいな」
夏休みを一緒に過ごすことを楽しみにしているのは政宗だけではない。
「はいっ」
恋人との熱い夏のために、そして何より今も自分を応援してくれているいとしい人に応えるためにも、幸村は自らを奮い立たせ、また課題に向き直るのだった。






6.テスト2日前。できる奴は余裕の表情。

「この単語とこの単語は覚えろよ」
「はいっ」
「助動詞は意味を抑えておけ。活用は基本的に動詞と同じだから、特殊な活用するヤツ以外は特に覚える必要はない」
「はいっ」
「この文は重要だからな。訳せるようにしておけ」
「はいっ」
教室、休み時間にも幸村に勉強を教える政宗に、まわりのクラスメイトはこっそり耳をそばだてながら政宗の指摘した箇所にチェックをいれていく。成績優秀者のアドバイスは貴重だ。
「それにしてもさー」
「Ah-n?」
「政宗はずっと旦那に勉強教えてるけど自分のテスト勉強は大丈夫なの?」
他聞にもれず幸村へのアドバイスのおこぼれをあずかって教科書にラインを引きながら佐助は何気なしに政宗に問いかけた。
「いいんだよ、俺はテスト勉強しない派だからな」
授業聞いてるから、直前にあせらなくてもどうにでもなる。
涼しい顔でそう言ってのけた政宗に、思わず顔がひきつる。
「できる奴は余裕の表情、ってやつですか」
「できるからこその余裕の表情、ってやつだ」
そう言ってニッと笑ってみせる政宗の隣では、幸村が教科書を相手に頭を抱えていた。






7.テスト1日前。とりあえず頑張れ。

「幸村、今日はもう寝るぞ」
時計の針はまだ日付の変わっていないことを示している。テスト対策のために政宗が一人暮らしをするマンションで強化合宿のように泊り込みで勉強を教えてもらいに来て一週間。日付が変わる前に寝かせてもらえたことなどないのに、テスト前日という、一番の追い込みをしなければならない今日にもう寝るなんて、と疑問の混ざった目で政宗を見れば、小さな苦笑が返された。
「とりあえずやれることはやったからな。あと二、三時間やったところでたいした成果はでねえよ。それよりも、明日にそなえて寝るほうがよっぽど効率的だ。テストの最中に寝ちまったら元も子もねえだろうが」
「はあ。しかし…」
「ほら、さっさとベッド行くぞ」
単純に寝るため、とはいえ愛してやまない恋人からのベッドの誘いに思わず赤面した幸村の考えていることなどお見通しなのだろう、笑って頬にキスをされた。
「Good boy,頑張ったご褒美にテストが終わったら俺のこと好きにしていいぜ」
「ま、政宗殿っ」
首にまわされ、至近距離でコケティッシュに笑う恋人の腰に反射的に腕を回しながら、禁欲生活を強いられていた若い性が知らず熱を持つ。
「だからな、明日からのテスト、とりあえず頑張れよ」
チュ、と今度は軽い音を立てて唇に落とされた触れるだけのキスと、満足したように笑いながらするりと腕の中から逃げる肢体。
「ほら、早く寝るぞ」
きゅ、と握られて引っ張られる手。掴まれた腕を解いて指を絡めなおせば、少し照れくさそうに返されるはにかんだ笑顔にちゅ、と口付けを返す。
「あいしております、政宗殿」
「…ばか」
小さく悪態をつきながらも少し力のこめられた手と赤く染まった頬がいとおしかった。









まあ、笑顔は百点満点だから。



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