・現代幸村×政宗
・二人は同棲しています
・政宗の父親死去






暗い表情でうつむきふさぎ込み、悲しそうに自分の殻にこもって己を守ろうとするその姿はひどくかなしくて。




実家から戻ってきた政宗殿は泣きそうな声でゆき、某の名をつぶやいて、それから風呂に入って、某の腕の中で眠った。
(やはり行かせるべきではなかったのだろうか)

彼の父の葬儀だった。
母親を含む母方の親戚との折り合いが悪い彼は、実家に戻れば居心地の悪い思いをすることがわかっていた。けれど、母親が彼をひどく疎むことを歯牙にもかけず政宗殿を溺愛し理解し、応援し続けてくれた父親の葬儀だったのだ。
政宗殿はお父上殿の死に目に立ち会えなかった。前々からの病気。けれど発作は突然で。政宗殿がお父上殿の死を知らされたのは、お父上殿が病院で苦しんだ7時間の終わった、つまり彼が亡くなった後であった。政宗殿は、父上殿が倒れたことすら教えてもらえなかった。仮にも政宗殿はご長男であり跡取りであるというのにこの仕打ち。
知らせを受け、携帯電話を握り締めたまま呆然と棒立ち、プライドの高い彼が人目もはばからずにはらはらと涙を落としたことを、政宗殿の親族は誰も知らない。

「あそこにいってももう父上はいないんだ。俺が戻っても…場の空気が悪くなるだけだ」
政宗殿はそう言って葬儀にゆくことを拒もうとしたけれど。
「なれど、お父上殿は政宗殿の大切なお方でしょう。そして、お父上殿にとっても政宗殿は大切な御子であったはず。大事なのは他の方がどう思うか、ではありませぬ。政宗殿ご自身がどうしたいか、でござろう。最後に、一目。たとえそこに残るのが魂の落ちた抜け殻であろうとも、一目、お父上殿のお目にかかっておかねば後悔するのはきっと政宗殿ご自身でござる」
彼を説得し、躊躇う背を押したのは俺だ。
あのことばは間違っていなかった。そう信じている。けれど、彼を厭う人たちの中にひとり彼をやったのは間違いだったのかもしれない。



戻ってきて以来暗く塞ぎこみ、けれど涙など見せようとしない政宗殿。

某に、何か。
何か、してあげられることはないのだろうか。


ほとんど口をきかず、食物を口にしようとしない政宗殿。ひどく思いつめた様子の彼のために、何か。









「政宗殿」
カーテンを閉じて灯りもつけず。昼間だというのに薄暗い部屋の中、彼は部屋の隅でひざを抱えてうずくまっていた。
「政宗殿。何も口にしないのは御身体に悪うござります。政宗殿のように上手ではござらぬが、某が食事を用意いたしました。ほんのわずかなりともかまいませぬ。どうか、食べてはくださりませぬか?」
「…」
そっと視線をあげた彼は途方にくれた子供のようにたよりなく不安にゆらめいていて、縋るように俺を見るその眼差しがひたすらにいとおしかった。
「身体が冷えておりますな」
ベッドから引き摺り下ろした毛布で彼の身体を包む。
「急に重たいものを食べては胃に悪うござるゆえ」
土鍋に作ったおじやをレンゲですくい、ふーふーと軽く冷ましてから口元に運ぶ。
「…」
政宗殿は何も言わず、けれど緩慢な動作で顔を上げて小さく口を開いた。その隙間にレンゲをさしこみ、彼の口に落とす。
「…」
ぽろり。彼の隻眼から涙がこぼれた。それをきっかけとしたようにぽろぽろとこぼれていく涙。
「政宗殿…」
けれど政宗殿は何も言わず、泣いていることにも気づいていないかのような様子で再び薄く唇を開き食事を要求する。
「…」
「…」

ふたくち、みくち。
何も言わずに、レンゲに少量すくったおじやを軽く冷まして彼の口に運ぶ。その動作を続けた。

「…うまいな」
「…」
土鍋の中のおじやが三分の一ほどなくなったころ、目を伏せ、力ない声で政宗殿がそっとつぶやいた。
「おいしい」
その声がひどくかなしくて、俺はレンゲを土鍋に投げるように落とすと、勢いよく彼を抱きしめた。
「政宗殿…!」
「…」
抗うことなく俺の腕におさまった政宗殿は記憶にあるよりもやせているように思えた。
「…あたたかい」
それだけ言うと政宗殿は某の胸にすがりついて、声を殺して泣きじゃくった。
声を上げて泣いてもかまわない。そう言いたかったけれど、彼に必要なのはそんなことばではなくおそらく誰かの、人のぬくもりなのだろうと思った。



泣きじゃくって疲れたのか政宗殿はそのまま気絶するように眠ってしまった。
俺は毛布ごと彼を抱き上げてベッドに寝かせると、残ったおじやの鍋を台所に戻し、政宗殿のもとに戻り彼を抱きしめて同じベッドで眠った。
やりたいこともやらなければならないこともたくさんあるのだけれど、俺にとって一番大事なのは政宗殿で、今一番重要なことは政宗殿のそばにいることだった。

目が覚めたときに政宗殿が一人ではないように。夢の中でまでも彼が傷つくことのないように。
彼が一人で泣くことのないように。

ただそばにいて、とろけそうなほどに彼を甘やかして愛していると伝えなくてはいけない。
愛していると君に伝える
それが今日どころか俺の人生の中での一番の重要な仕事なのだ。






哀しいときも、うれしいときも、僕はきっとそばにいるから。



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