・サナダテ
政宗が女の子です
・二人とも学生(高校一年生)で、同い年
・ついでに佐助も同い年
・佐助が不憫(いつものこと)






恋に浮かれる者、巻き込まれる者





思い人を呼び出した放課後。
戸惑いながら現れた彼女は、そこで待つ俺を見つけて困ったようなほっとしたような表情をした。
「さなだ」
わずかに下げられた眉尻がなんともいとおしくてかわいらしくて、たまらずに俺は叫んだ。


「好きです」


叫ぶと同時に驚きに目を丸くした彼女を腕の中に閉じ込めた。
女性にしては鍛えてあるけれどやはり華奢な彼女の肢体はすとん、と倒れこむように容易く胸に落ちてきて、その甘い匂いにくらくらとめまいさえした。
「さなっ」
慌てたような声が顔の近くで聞こえる。いまさらのようにこの至近距離に緊張を覚えた。普段の幸村ならきっとこんな大胆なことできなかったに違いない。度を越えた緊張は時として人を過度に大胆にする。
「政宗殿…」
緊張が高じて声がかすれる。ちょうど彼女の耳元でささやく形になった。
耳が弱いのか、政宗はびくんと震え、熱い息を吐いた。ますますいとおしい、かわいらしい。抱きしめる腕に力をこめる。

「政宗殿のことを、慕っております。この上なく好いておるのです。…どうか、某と付き合ってくだされ」

顔が見たい。
力を緩めて、そっと顔を覗き込む。彼女の美しい顔は羞恥と困惑に彩られながら赤く染まり、隻眼は潤み目の淵がほかより少し濃く染まっているのがなんとも言えず色っぽかった。

「さなだ…」

戸惑うように潤んだ隻眼がゆれ、しかし暫しの躊躇いののちにしっかりと幸村を捉えた。
「おれ…」
誰かの瞳に自分が映されているということがこれほどまでに幸福であることを今まで知らなかった。幸村は緊張とともに政宗の言葉の続きを待ちながら、恥らう政宗をうっとりと見惚れた。
「おれも、おまえのこと…」
すきだ。









「あの瞬間、俺は本気で死んでもいいと思うくらいに幸福だった」
うっとりと数日前の出来事を思い出しながら語る幸村に、佐助は何度目か知れないため息をついた。
「うん、俺様それ聞くのもう30回目くらいな気がする」
明らかにうんざりした表情をしているが、幸村はそんなこと気にもかけずになおも思い出に浸る。
「感極まって口付けた俺に、政宗殿は驚きながらも身を任せてくださり…俺の制服のすそに控えめにすがるしぐさがまたたまらなくて…優しくしようと思っていたというのに、つい…」
そのときの感触まで思い出しているのかもしれない。幼さがまだ残るものの本来は精悍であるはずの面立ちをだらしなくゆるめ、幸村は滔々と語り続ける。
「口付けが終わるころには政宗殿の息が上がって頬が紅潮しているのもまた愛らしく、潤んだ隻眼で俺を見上げて名前を呼ばれたときには、理性が飛ぶかと思ったぞ」
「はいはい、実際に飛ばしておいしくいただいたんでしょーが」
「何を言うか!俺はちゃんと理性を保ったぞ」
「どのへんが」
うんざりしながらも話をちゃんと聞いてあげる俺様ってどんだけ面倒見がいいんだろう。内心でぼやきならも佐助は幸村の話をちゃんと聞く。しょうがない。その昔、幸村に人の話はちゃんと聞くよう躾けたのは佐助なのだから、佐助が幸村の話を聞かないわけにはいかない。
「その場で押し倒したいのをこらえ、家に戻るまで我慢したであろう!」
自信満々に言い切る幼馴染に佐助は涙が出そうになった。
「政宗殿はどこもかしこも柔らかくていいにおいがして…。あまりにも甘い声で啼くものだから、ついつい意地悪をしたくなってしまってなあ。泣きながら俺の背にすがってくるのもまたかわいらしくて…」
昔は短いスカートをはいた女の子や手をつないだ恋人たちを見るだけで「破廉恥!」と顔を赤くして叫んでいたはずなのに、いつの間にこんな破廉恥な子に育っちゃったんだろう。そんな子に育てた覚えはありません。
佐助はうんざりしながらこっそり心で泣いた。気分はすっかり母親だ。

二人が出会ってから今日までが1週間。
つまり、入学式が1週間前。幸村が政宗を呼び出したのがその3日後。付き合い始めて今日で5日目。
早すぎる展開だ。
この調子では、1ヵ月後くらいには子どもができたなどと言いかねない。それだけは、幼馴染兼保護者(同い年なのに…)として、断固阻止しなければならない、と佐助は幼馴染の性生活なんて心配したくなかったと思いながら口を開いた。
「旦那、…あのね、一応言っとくけど……旦那も政宗ちゃんもまだ学生なんだから、その……」
「なんだ、佐助」
「…………ヤる時は、ちゃんとゴムはつけてね」
常識である。
いくら幸村であろうとそのくらいの知識はあるだろうし、佐助がわざわざ言うまでもないことだろう。だが、これに関してはちゃんと釘をさしておかねばなるまい。
そう思ったのに。


「ゴム?」
なんだそれは。
きょとん、と無邪気な子どもの顔をして幸村が首をかしげる。
その瞬間、佐助は嘘だろおおおぉおぉと叫びたくなった。
二人が付き合い始めて今日で5日目。入学式が火曜日で金曜日にめでたく付き合うことになった二人は金曜の夜から日曜の夕方にかけてずっと一緒にいたはず。
可能性は、十分に、ある。

政宗に出会うまで性的なものに興味関心が一切なかった幸村と、過保護な保護者によってそういった類の知識を一切シャットアウトされていた政宗。
佐助の心の平穏と胃の健康をどこまでも破壊してくれるカップルだ。
悪気がないところがさらに憎い。


数日後。
幸いにして政宗に子どもはできておらず、ほっと胃をなでおろした佐助は二人を正座させ、避妊の大切さについて懇々と諭すはめになったのだった。

(勘弁してよね…)
まさか、幼馴染とその彼女を相手に保健の授業をするはめになるとは思わなかった。
これも真田幸村の幼馴染として生まれ、幼稚園から高校にいたるまで何の因果かずっと同じクラスという憂き目にあった佐助の宿命なのだろう。しかも、これからは幸村と同レベルの破壊力をもった政宗の面倒も見なくてはいけない気がする。俺様、前世で何か悪いことしたのかなあ。



これから3年間、このバカップルに振り回されるであろう予感からすでに胃が痛い佐助であるが、一番性質が悪いのは、どれほど迷惑をかけられようとも決して幸村を嫌いにはならない上に、短い付き合いではあるが政宗のこともかなり気に入ってしまった自分であることを、佐助は故意に気づかないフリをしている。






きらいになれないのだからしかたない。




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