・幸村×♀政宗
・現代
・政宗さんが女の子です
プールに行きたい。
目が覚めて、開口一番にそうねだられた。
プール、ですか。
そう、プール。浮き輪に乗って流されたり、ウォータースライダーで遊んだりしたい。なあ、プール行こうぜ。こんなに天気がいいんだし、夏休みなんだし。
…。
幸村にとって政宗は最愛の恋人であり目に入れても痛くない存在だ。四六時中そばにいたいし、なんなら隙間なくぴったりくっついて一日中を過ごしていたい。
大切で、愛しくて、誰の目も届かないところに閉じ込めてしまいたいくらいだ。
そんな絶賛溺愛中の恋人のおねだりはできるうる限りかなえてやりたいとおもう。
だが、しかし。
青い水着に白く華奢な肢体を包んだ政宗を想像して、幸村は内心にやけそうになったが必死に堪える。政宗の胸はそう大きくはないがきれいな形をしているし、よくくびれた腰やすらっと伸びた手足はこの上なく魅力的なのだ。
「プールは…、その…」
「だめか?」
渋る幸村の顔を政宗がじっと見つめる。すでに昼に近い時間でカーテンのわずかな隙間からは燦々たる陽光が差し込んでいるとはいえ二人はまだベッドに横たわったままであり、明かりもつけていない部屋は薄暗い。シーツの隙間からのぞく政宗の白い首筋には昨夜の名残があり、どうにも落ち着かない。大人なように見えて意外に初心な政宗のことだから、これらは決して計算されたものではないのだろうが天然というのは時として最強の凶器になりうるものだ。
「政宗殿…」
うろうろと視線を彷徨わせていた幸村であったが、至近距離から見つめられては逃げられない。結局、おそるおそる視線を戻し、艶やかな唇に心を奪われながら心を鬼にして口をひらいた。
「某、プールには行きたくありませぬ」
「…なんでだよ」
自分に甘い恋人がだめだしをするとは思わなかったのか、政宗は唇を尖らせる。それがキスをねだる仕草に似ていて幸村はますます目を奪われる。
「夏っていったらプールだろ、なあ、行こうぜ。泳げないわけじゃないんだろ?つか、泳げなくても浮き輪に浮かんでるだけで楽しいし」
なあ、だめか?
するりと、シーツから抜け出した白い腕が幸村の首に回される。ちゅ、と軽い音を立てて顎の先に、頬に、唇の端に、強請るように口付けられ、幸村はほとほと困り果ててしまった。政宗のかわいいおねだりに、昨夜…というよりは、今朝まで睦みあった余韻の残る身体に熱がともるのに時間はかからなかった。
そもそも、空調のきいた部屋で二人抱き合って裸のまま一枚のシーツに包まってひとつベッドに寝転んでいるこの状況で、我慢などきくわけがない。
「政宗殿」
理性に見切りをつけた幸村はくるりと身体を反転し、腕の中に閉じ込めていた政宗をシーツの上に縫いつけ、覆いかぶさる。
「プールに行く…というのは中々に魅力的な案でござるが、某、ほかの男どもに政宗殿のこの白い肌がさらされること、我慢なりませぬ」
「…ぁ…、っ」
首筋の痕を舐めながら耳元で低くささやけば、政宗の細い身体は振るえ、もどかしげに身をよじる。
その反応に気をよくしながら、それに…と、続ける。
「そこかしこに、某の痕が残っておりますが…よろしいのですか?」
「痕…?」
快感に潤み始めた瞳をきょとんと瞬かせた次の瞬間、ぼっと顔どころか全身を赤く染めた政宗は信じられない、という目で幸村をにらみながらじたじたと手足を動かして暴れ始めた。
「やっ、馬鹿ゆき…、アホ、放せ、破廉恥男―っ」
潤んだ瞳でにらまれても怖くないし、顔を真っ赤にしながら抵抗されても誘っているようにしか思えない。
「政宗殿」
「なに…、っん…ぅ、…」
「愛しております」
ささやくと同時に唇を塞ぎ、舌を差込み蹂躙する。
ぽかぽかと幸村の背を叩いていた腕は気がつけば縋るように幸村にしがみつき、口付けに応えるように薄く唇を開いて進入してきた幸村の舌に自らのそれを絡める。
「ふぁ…、ゅき…、ん…」
3日前から夏休みに入っているため、時間はいくらでもある。
何もこんなに暑い時間にわざわざ外に出る必要もあるまい。
政宗だって、本気で怒っているわけではなく恥ずかしがっていただけなのだ。
恋人とプール、というのもなかなか魅力的な夏のデートプランだが、恋人と一日中ベッドでいちゃつく、というのはもっと魅力的な一日の過ごし方だ。
夏の恋人たちの過ごし方
結局。
シーツの波にさらわれた二人がベッドから抜け出したのは、夕方に近い昼過ぎだった。
(Shit!もうこんな時間がねえか馬鹿幸村)
(しかし、もっと…とねだってしがみついてきのは政宗殿でござ…)
(Shut up!)
要するに、二人でいられるのならなんでもいいのだけれど。
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