・幸村×♀政宗
・現代
・甘いですよ
・事後(しかも初体験)
・まあ、一応R15ということで







男がずるりと体内から抜けていくのを感じた。
ついでにそこからトロトロと流れ出る男の残滓も。

(…気持ち悪い)

自分を抱きしめて頬や額に口付ける男へのいとしさで胸がいっぱいになるけれどその不快さに眉をひそめずにはいられない。生理のときに膣から血が出て行く感触にも似て、なんとも落ち着かないのだ。愛しい男のものでなければ、絶対にごめんだと思うような感触だ。男はいいよな、気持ちいいことだけして、出すだけ出してすっきりして。

恨みを込めて男をにらみつけるが、映るのは幸福に緩みきった表情。そんなものを見せられては文句も消えてしまう。整った顔立ちではあるものの目が大きくて表情豊かな幸村が満面の笑みを浮かべている様は、好物のお子様ランチを前にした幼稚園児の無邪気さにも似て、ほほえましくも暖かな気持ちになってしまう。先ほどまで政宗を思う様貪った獣のような雄くささはどこにいったんだか。あきれながらもそのギャップにすらときめいてしまうのだから始末が悪い。

あきらめて微笑み返し、ついでに楽な体勢を探してもぞもぞと身じろぐ。政宗が動いたことが気に食わなかったのか、捕らえる腕にぎゅ、と力が込められる。それが心地よくて思わず擦り寄れば、さらに強く、ぴたりと隙間もないほどに密着する。
情事の後の未だ熱の冷め切らない身体にこの体温はあつくさえあったが、それでも決して不快ではなく、自らその熱を求めるように政宗は幸村の背に腕をまわし、抱きしめ返して幸村の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。


初めてであった、ということもあるのだろうが受け入れる瞬間はとても痛くて、血すら出たのだが、いとしい男と繋がっている、という事実は政宗をとても幸福にした。しかしより安らぎを得ることができるのは今のようにきつく抱きしめあう瞬間だと思う。ぴったりとくっついた胸からは互いの鼓動がとくとくと重なって、やがて一つになっていくように錯覚する。そんな瞬間がとても幸福だ。

幸村がとても嬉しそうであったし、痛いだけでもなかったし、繋がる行為も決していやではなかったのだが、ゆさぶられて喘がされてただただ男の圧倒的な熱に飲み込まれて、わけもわからず我を失って乱れてしまうのは終わった後に残る恥ずかしさが半端ではない。行為の最中も恥ずかしいところを見られたし、恥ずかしいことをいっぱい言われたし言わされた。気がする。気がする、というのは、正直なところ最後のほうは記憶すら定かではないからだ。ただただ男の熱と、いとおしさだけでいっぱいになってしまって。何も、考えられなかった。恋人とのふれあいにそれ以上に必要なものがあるかと問われれば考えてしまうのも事実ではあるのだが。性的に初心なところのある政宗は与えられる快感や幸福を受け止めるのに精一杯で、一つ一つを味わう余裕なんてなくって、それがちょっとだけ悔しかった。



「ふぁ…」
こっそりと、小さな欠伸を一つ。
ダメだ、眠い。もっとこの緩やかな熱を感じていたいのに、幸村の腕の心地よさや時折触れる唇を楽しんでいたいのに、目を開いていられない。まぶたが落ちる。
体力にはそれなりに自信があったのだが、思っていた以上にこの行為は体力を使うらしい。初めてだというのに3、4回も続けて求められたのもこの疲労の原因に違いない。事実、何回目かの行為の果てに政宗はしばし意識を飛ばしてしまっていた。体力おばけの幸村はまだまだ余裕がありそうだが、さすがにこれ以上はムリだ。恋人の要望に応えてあげたい気持ちがあっても体力が限界を訴えている。


「ゅき…」
すでにほとんどまぶたは閉じてしまっている。
この幸福を伝えたくて、どうにか口を開いてみれば我ながらやたら眠そうな甘ったるい幼い声がでて、わずかに顔をしかめる。いや、顔をしかめたつもりだがそれ以上の眠気に負けて政宗の意図したものとは違いほわほわと幼げな表情をさらすばかりだ。
「どうなさいました?政宗殿」
穏やかに微笑んだ幸村が髪を梳くその感触すら眠気を増幅するものでしかない。
ああ、心地いい。こんなにもとろとろに甘やかされていては、いつか溶けてしまうのではないかと心配になるほどに幸村は優しく政宗を抱きしめては甘やかす。ささやき返す声も低く甘く、行為の余韻の残る身体が熱くなる。
「だぃすき…」
我知らずとろけそうなほどの笑みを浮かべてそれだけを告げた政宗は、甘い眠りに誘われるまま、夢の世界へと旅立っていった。





幸福そうに幸村の胸に顔を埋めて眠ってしまった政宗がいとおしくてかわいくて、幸村は緩んでしまう頬をもてあました。

(なんと、おかわいらしい…)
常は凛とした声ではっきりとものを言う彼女の、常にない甘く幼い口調で告げられた愛のことばが嬉しくてたまらない。あまりのいとおしさにどうにかなってしまいそうだ。

「まさむねどの…」
そっと名を呼んで、頭のてっぺんに口付けを落として、どうにかこの湧き上がるいとおしさを発散させようとするのだが、うまくいかない。いつだってこれ以上ないほどに政宗をいとおしいと思っているのに、彼女のことば一つ、仕草一つで際限なく膨れ上がるいとおしさ。きっと彼女への愛は限界のないブラックホール、この地球(ほし)も太陽も包み込んでなお広がる銀河系、それ以上に違いない。

腕の中のいとしい人の美しい寝顔を堪能しながら、幸村は困ったように眉尻を下げる。
(さて、どうしたものか…)
この世の誰よりもいとしい人のかわいらしい言葉に、困ったことに若い身体は反応を示してしまったようだ。当然といえば当然なのだが、初めての行為に疲れて眠ってしまった政宗を起こして行為を求めるなんて言語道断だ。しかし彼女がそばにいるというのに右手のお世話になるのも情けないし、何より、この腕の中で幸福そうな甘い寝顔をさらしてくれる彼女のそばをそんな理由で離れたくない。
となると、選べる道なんて一つだけ。
(我慢…できるだろうか)
腕の中の愛しい人の吐息を感じながら、熱など収まるはずがない。すでに夜明けが近いとはいえ恋人の目覚めはまだ遠い。
はぁ、とそっとため息。

それすらも、幸福な悩みであることに違いはないのだけれど。
眠れないであろうことを予想しながら、幸村は政宗が目覚めるまでの時間、彼女の寝顔を堪能することにした。






なにもかもがいとおしい






このいとおしさ、どうしてくれようか



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