・幸村×♀政宗
・5歳差
・転生もの。記憶あり
・現世では政宗は右目もちゃんとあります







片目を手で覆う。それでも彼は視界から消えない。けれどその目で見る彼は別人のようにすら見えて、困惑に眉を寄せながら軽く頭を振り、今度は逆の目を隠して彼を見た。今度は違和感なく彼の姿が見える。しいて言えばあの赤い鉢巻がないのが違和感といえば違和感だ。うんうん、と納得したようにうなずき、そしてもう一度反対の目で。
「…政宗?」
じっと政宗の行動を見ていた男が困ったように眉尻を下げている。
「こっちの目で見るとあんたじゃないみたいだ」
目を交互に隠して幸村をじっと見つめては首をかしげる。そのしぐさはどこか幼くて、記憶にあるよりもずっと柔らかな雰囲気を持っていた。
「…」
「なんでだろうな」
違和感が不快なのか、その理由がわからないことが気に入らないのか、少しすねたように唇を尖らせて幸村を見上げる政宗が、あまりにもかわいくて。
「〜〜っ」
思わず、片手で口元を覆ってその場にうずくまってしまった。








真田幸村21歳、大学生。教育実習でたまたま訪れた学校、彼の担当するクラスに、かれはいた。
伊達政宗16歳、高校生。
緊張でがちがちに固まった幸村には正直、あたりを見回している余裕はなかった。なんとか帰りのホームルームを終えて廊下に出たところを呼び止められた。
「真田先生」
かわいらしい、幼く高い声。耳になじみのないその声は、けれどすとんと幸村の中に落ちてきた。

焦燥に駆られて勢いよく振り返った幸村の視線の先に立っていたのは。
幸村の顎の下ほどまでの身長。腿の半ばまでしかない短いスカートと白いブラウス、赤いリボンの制服に身を包んだ少女。幸村を見上げるぱっちりとした大きな目は長い睫毛に覆われていて、白い肌と細い手足が庇護欲をそそるような、絵に描いたような美少女。
振り返ったまま、何かに驚いたように絶句した幸村を見て少女が不思議そうに目を瞬かせる。
「先生?」
首をことりとかしげた拍子に肩につくかつかないか、という長さの黒髪がさらりとこぼれる。
そんな少女を目に写しながら、けれど幸村は遠い記憶の中、刀をふるい血と泥にまみれながら笑った青年を見ていた。
「伊達…政宗、殿…」
その名を口にしたのはほとんど無意識だった。
「Good」
少女が嬉しそうに笑う。不安そうに揺らめかせていた瞳を喜びにほころばせ、瞬時にかつてのような鋭い光を宿して幸村をじっと見つめる。
「Long time no see、真田幸村」

ずっと探していた、会いたいと願っていた相手だった。






そんな唐突な再会を経て、幸村が教育実習を終え学校を去るころには二人は恋仲となっていた。かつて互いに強く惹かれあいながらも思いを遂げることのなかった二人だ。決して消えない恋情を抱き続けていたのは幸村だけでも、政宗だけでも、なかった。

幸村が政宗の通う学校に教育実習生として現れたことも幸村の受け持つクラスに政宗がいたことも偶然の産物でしかないのだが、生まれる前―前世―から思いあっていた二人が今生でもめぐり合えたことは運命としか思えない。
二人はまだ若い。前世の記憶のために時々達観したような、老成したような姿を見せることもあるけれど二人向き合えば思いはあのころ、出会ったばかりの17と19のころに戻ってしまう。ただひたすらに相手のことが欲しくて、求めてやまなかったあのころ。そんな思いのまま、今は21と16の二人は年相応の、極普通の恋を展開するに至ったのである。







「でも、ま、いいや」
交互に目を隠しては幸村を見て怪訝そうな顔をしていた政宗は、原因を解明するのを諦めたらしく、さっぱりと笑ってうずくまっている幸村に擦り寄った。
「右目で見ても左目で見ても、もちろん両目で見ても、幸村は幸村だし、おまえが最高にcoolな俺の恋人だっていうことに違いはないし!」
ずっと、あんたを両目で見てみたかったんだ。
とろけそうな笑顔で、あまりにも幸福そうにそう言うものだから。
どうにもいとおしさがとめられなくて。今の二人にはそれをとめる必要なんてなくて。
いとしいとしと叫ぶ心のまま、幸村は政宗を抱きしめた。




ごく普通の恋





何気ない今がとても幸せ。




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