疲れきって泥のように眠る少年を見て、胸が痛くなった。
そのまだ幼さを残すやわらかそうな白い頬に残る涙のあとに胸を締め付けられる。


尊敬していた父親を喪って以来、この子はずっと心を凍らせてきた。
それをゆっくりと溶かし始めたうちはの炎。
小さな炎はそれでも力強くって、この子の氷を急速に溶かしていったのに。
なのに、完全に溶ける前に、炎は消えてしまった。


「…」


閉ざされた左目の上に走る一本の傷跡。
このまぶたの下には、生まれたばかりの紅い炎が宿る瞳。
左目の炎は、最後に残されたこの子の氷を溶かしてくれるだろうか?
それとも、炎を内包してこの子の氷は尚硬く閉ざされていくのだろうか。


「…」


11年前、生まれたばかりの幼い赤子を抱いた。
小さな、小さな暖かい光。
生まれたばかりの小さな希望。
幸せに、なりますように。
祈りを込めて、抱きしめた。


「…カカシ」


何度、呼んだだろう。
この子の名前を。
何度、抱きしめただろう。
この小さく華奢な身体を。

父を失い、友を失い、それでも生きている。
このご時世、それでもこの子は幸福な部類に入るのかもしれない。
血に連なるものは死に絶え、心を開いてくれた友を失い、それでも生きている。
この時代、それでもこの子はまだマシな部類に入るのかもしれない。


「…カカシ」


それでも、そう言って疲れた大人のようにすべてを諦めて笑うにはこの子はまだ幼すぎる。
でも、だからといってすべてを諦められずに聞き分けのない子供のように泣きじゃくるにはこの子は大人すぎる。
大人にも子供にもなれない少年は、苦しんで、傷ついている。

優しすぎるその心。
純粋すぎるその心。
柔らかすぎるその心

そばにいることしかできない自分。
何も、してあげられない。
オレは、間に合わなかった。
オビトを、助けられなかった。
オビトがもし死ななかったら。
そうすれば、カカシはもっと強くなれたかもしれない。
すぎたことを思ったところでどうにもならない。
それでも、もし…と思うのは、人間の愚かな習性なのかもしれない。


「どうか…」


そばにいることで、自分はこの子に何をしてあげられる?
オレは、この子の“救い”になれるだろうか。


「どうか、生きて…幸せに…」


願わずには、いられない。
神も仏も知らない。
縋るものなんて、ひとつも知らない。
でも、何かに願わずにいられない。
この小さな子供が幸せを手に入れること。
笑顔を、曇りのない笑顔を手に入れるころ。
願わずに、いられない。



大事なものは、たくさんある。
でも、本当に大切なのは、この小さな子供だけだから。
どうか、どうか幸せを――


願う想いがこぼれて、少年を守るように抱きしめる青年の頬を伝っていった。








大切な君がどうか笑っていられる世界に出会えるようにと。






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