あの人について思うこと


一.サクラについて思うこと








「行かないで!!」



思い出すのは、木ノ葉での最後の夜、涙を流しながらオレを必死に引きとめようとしていた姿。


あのまま、オレが思いとどまっていたら何かが変わったのかもしれない。
でも、オレはあの場所にいることができなかった。




「ありがとう…」




考えるより先に、口をついて出た言葉。


あの言葉を聞いて、アイツはどう思ったのだろう。
アイツがどう思ったとしても、オレはかわらないだろうけど。






サクラのことを考えるとき、オレの心の中はいいようのない感情でいっぱいになる。
ナルトに対する思いとは、違う。
カカシに対する思いとも、違う。
ある意味で、サクラもオレにとって非常に特別な人だ。
ただ、それは決して恋愛感情ではありえない。





「私は、サスケくんが好きで好きでたまらない!!」





あの言葉が、どんな状況で紡がれたものだったとしても、オレはアイツの望む答えを返してやることは決してないだろう。





ナルトのことも、サクラのことも、カカシのことも、大切だと思う。
何よりも大切で、…愛しいとすら、心のどこかで思っているかもしれない。
でも、それでも違う。




ナルトのことを思うとき、オレは同時に憎しみも覚える。


カカシのことを思うとき、オレは同時に疎ましさも覚える。


でも、サクラを思うとき。


サクラを思うとき、オレは優しさを覚えることができる。





ナルトを無二の存在だと思っている。。
この世でただ一人、オレと同じ孤独を知っている存在だと思う。
誰よりも、大切だと思っている。

でも、それと同時に誰よりも殺したい。
無二の存在だから、壊してしまいたくなる。
アイツの笑顔を気に入っていた自分を否定したくて、アイツの笑顔を消したくなる。
大切だから傷つけたくて、憎いから愛しい。

そんな表裏一体の感情をアイツはオレに抱かせる。



カカシをすごい忍だと本当は思っている。
強くて、厳しくて、優しくて、…少しだけかっこいい。
“先生”なんて呼んだことないけど、でも師だと認めている。

でも、それと同時にどこか疎ましい。
どこか諦めたような笑顔だとか、飄々とした顔をしてあっさりとオレをガキ扱いしてしまえるところとか。
本当は、イタチがアイツを認めているところも気に入らない。

カカシは、オレのコンプレックスを刺激する。




サクラは?
オレにとっての、サクラは?




「サスケくん」




思い出す。
あの笑顔も、あの弾んだ声も。



恋愛感情なんて、欠片も抱いていない。
憎しみなんて、これっぽっちも覚えていない。



ただただ純粋に、大切だった。



そんな感情を抱かせてくれた彼女に、感謝をしたい。
ままごとのような生ぬるい世界で、ままごとのように平和で暖かい気持ちを抱かせてくれたこと。


「行かないで!!」


あの時、彼女の手をとっていたらまた違う自分がいたのだろう。
そんな未来も、確かにあったのだろう。



でも、サクラは…サクラは、オレにナルトほどの執着を覚えさせないから。
ただそこにいれば…生きているのなら、ただそれだけで十分だと思える程度の執着しか覚えさせないから。



このオレに、ただその生だけを望ませる唯一の存在。



それが、オレにとっての春野サクラ。







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