あの人について思うこと


一.ナルトについて思うこと








馬鹿で向こう見ずで単純。

情が深くて寂しがりやで泣き虫。

まだまだお子様。

そんな、オレの教え子の一人。
大切な、少年。






おまえのことは、おまえが母さんのおなかの中にいたころから知っているよ。


「ねえ、カカシ。この子は男の子か女の子か、どっちだと思う?」


おまえの父さんはね、子供のような人だったよ。
でも子供のようでいながらその実誰よりも大人で、よく笑う人だった。


「カカシくん。あなたはどっちがいい?」


おまえの母さんはね、きれいな人だったよ。
きれいで強くて滅茶苦茶な人だった。



「「でも、男の子でも女の子でも僕たちの(私たちの)子供なんだから、絶対にキミ(あなた)のことを好きになるよ(わよ)」」



おまえの両親は、すごくやさしかったよ。
やさしくて明るくておまえのことをとても愛していた人たちだったよ。



彼らが幸せに笑う姿を見るのが、オレの幸せだったんだよ。









ナルトは、今、苦しんでいる。
サスケを求めて求めて、求めすぎて苦しんでいる。
そこにあるのは恋愛感情ではない(…と思う)。
それは純粋な執着心だ。

サスケを大蛇丸なんかに渡したくない。
復讐なんかに心を染めて欲しくない。
そんなことよりも自分を見て欲しい。
そばにいて欲しい。
そばにいさせて欲しい。
一緒にいきたい。

小さな子供のように純粋な執着心がそこにはあるのだと思う。
わがままで身勝手で無邪気な。





またいつかの日のように二人が口喧嘩をしている姿を見たい。
そんな二人を呆れたようにサクラが見ていて、そこから少し離れた場所でオレは本を読みながら笑っている。
昔あった未来をもう一度取り戻せたらいい。




「先生」





そう呼ばれるのは。
あの瞳に真っ直ぐ見上げられるのは。
思いがけず、心地よかった。
その髪の色も瞳の輝きもかつて師と呼んだ、少年の父親を思い出させた。
オレも昔、ナルトがオレを呼ぶその呼称で、少年の父親を呼んでいた。
遠い。
遠い昔の話だ。








『うずまき ナルト
うちは サスケ
春野 サクラ』
読み上げられた三人の子供の名前。
『はたけ カカシ』
オレの名前。
『おまえに、この三人を…任せられるか?』
視線の先には、愁いを帯びた三代目の姿。
『…御心のままに』
一瞬の躊躇いの後、頭を垂れた。
『これが三人のデータじゃ。わからぬことがあればイルカに聞くがいい』
『はい』

そうして、オレは彼らの上忍師となった。


四代目火影の忘れ形見にして九尾の器(大好きだった先生の息子):ナルト
うちは一族最後の生き残り(遠い昔に失った親友の血に連なる少年):サスケ


苦しかった。

記憶が、よみがえる。
遠い記憶が。

大切な、人たち。
大好きな人。
何よりも守りたかった、もの。
永遠に失った彼ら。


頭が痛い。
心が裂ける。
記憶の渦に巻き込まれそう。
悲鳴を上げてきしんでゆく。







あのメンバーで、何事も起こらないはずがなかったんだ。


そして、そのときオレは彼らをとめることができないなんていうことも、わかりきっていたんだ。






「でも、オレは…」




彼らをほかの誰かに任せたくなかった。
二人の子供の成長を、見ていたかった。
そばにいたかったんだ。




「幸せだったよ」




想像以上に楽しい日々だった。
ナルトとサスケとサクラとオレで。
四人で過ごした日々は、楽しかった。
思っていたよりもずっと。
心に描いたよりもはるかに。

だから、失いたくなかった。



「…こうなるのはわかってたのに」



ナルトがサスケに惹かれていたのに知っていた。
サスケがナルトに執着していたのに気づいてた。
二人が求め合うあまりにすれ違ってしまったのを知ったとき、オレにはもう何もできないのだと気づいた。







孤独の中、一人で泣いていた少年を覚えている。
周りの大人たちから忌み嫌われて悪意のある視線と言葉をいつも向けられていた。
その理由も知らないままに。
助けることもかばうこともできなかった。
あのころのオレは自分の心を守るのに精一杯で、残された子供がどんな目にあっているのか考える余裕がなかった。
自分の心を守るために暗部に身をおき手を血に染め心を消した。
幸せをねがった赤子のことすら忘れて殺戮に身をおいた。


「お父さん…」


たまたま通りかかった公園で見た一人泣いていた少年。


「お母さん…」


胸が痛かった。
近くの茂みに身を隠してこっそり泣いた。
それから、泣き疲れて眠ってしまった少年を抱き上げて三代目のところに行った。


「ナルト!」
いつまでたっても帰ってこないナルトを心配していたのだろう。
三代目は、ナルトの姿を見て安堵を身体中に表した。
「カカシ、すまんかったな。ナルトを…ありがとう」
「いえ…」







あのころから今でも、ずっと思っている。
ナルトが幸せに笑うことができればいいと、ずっと思っている。



そして、いつか伝えたいと思う。



「早く、生まれてきて。かわいい私の赤ちゃん」
「キミに会えるのを、とても楽しみにしているよ」




おまえは、望まれて望まれて愛されて愛されて生まれてきた子供なのだと。




いつか、教えてやりたいよ。




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