何でか知らないけど15も年上の、それも男に惚れてて、しかもいわゆる“コイビト”同士という関係になってる。
恋は盲目とはよく言ったものだ、と今更ながらに思う。
そして、アンタと離れることなんてこれっぽっちも考えない自分に、あきれる。
いつもの幸せ side:シカマル
パチリ、その音が響いた瞬間、向き合う二人のうち一人は心底いやそうな表情をし、もう一人は満足そうな笑みを見せた。
「王手」
もう、アンタに向けて何度言ったかわからないほどにこのゲームを繰り返している。
いわゆるコイビトになる前から、オレがアンタに対して恋愛感情を抱く前、アンタがオレをそういう対象として意識する前から、何度も繰り返されたこの行為。
オレが、アンタに勝てる唯一かもしれないことだから、余計にオレはこのゲームが好きだ。
「今のナシ!」
あわてたようにそういう口調が、情けなくって。
その情けなさが妙に愛しくって。
唇の端を上げて、笑って言った。
「あんたの、番だぜ?」
上目遣いに不適に笑ってやれば、だらしのない大人が両手を小さく挙げて、「まいった」と言った。
「くそー、また負けた」
将棋版を片付けながら、目の前の男は心底悔しそうに言う。
何度勝負をしても、何度負けても、悔しそうにしている。
そんなところが、好きだと思う。
「もう一回やろう」
そう言って、こちらの返事を聞く前に準備をし始める。
「えー…めんどくせえ」
そう言ってやると、予想通りアンタは情けない顔になる。
ばれないように、のどの奥でくっと笑った。
「〜〜じゃあ、今度負けたら晩飯の準備と片付けと風呂掃除はオレがやるからよ」
何度も繰り返された、こんな会話。
「…いいぜ」
いつも、オレの応えも同じ。
「よし、じゃあオレからな」
いつも、同じように笑うアンタ。
こんな日常の繰り返しが、すごく好きだし大切だと思う。
オレもアンタもいつ死んでもおかしくないんだから。
パチリ
最初に始めたときは日はまだまだ高かったのに。
もう、西の空は赤く染まりかけている。
この一局が終わったらアンタはしぶしぶながらも飯を作り出して、オレはそんなアンタを待ってる間に寝ちまうんだろうな。
くそ、悔しいことにめちゃくちゃ幸せな一日じゃねえか。
全部、アンタのせいだ。
共に過ごせる時間を大切にしたい
アスマside
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