気がついたら15も年下の、しかも男に惚れていて、気がつけば“コイビト”同士なんていう関係にまでなっている。
恋は盲目、まったくそのとおりだ。
でも、そんなことを考えつつもアイツと別れようなんてこれっぽっちも考えてない自分に笑えてくるぜ。



いつもの幸せ side:アスマ




パチリ、その音が響いた瞬間、向き合う二人のうち一人は心底いやそうな表情をし、もう一人は満足そうな笑みを見せた。



「王手」




もう、何度コイツに言われただろう。数え切れないくらい二人で将棋をして、そしてその数だけオレはこの言葉を言われている。
まだただの下忍とその担当上忍だったころから、幾度となく繰り返されるこのゲーム。

一度も勝ったことはないけれど、お互いに対等な立場で楽しめるからオレはこのゲームが好きだ。



「今のナシ!」



シカマルがついさっき動かした桂馬を恨めしそうに見ながら、オレは自分でもわかるほどに情けない声でいつものセリフを繰り返す。

シカマルが唇の端を吊り上げて言った。




「あんたの、番だぜ?」




言うなれば、“子悪魔的”なその表情と声音。
上目遣いの不敵な笑みが、ふてぶてしいと同時にひどくかわいらしく見えるのは惚れた欲目だろうか。

未練がましく板状を見てもこまの配置が変わるわけでもなし、オレは仕方なく「まいった」と小さく両手を挙げて言った。



「くそー、また負けた」



何度負けていたとしても、楽しかったとしても、悔しさは悔しさで毎回味わう。
まあ、悔しさも含めて楽しんでいる嫌いはあるが。
ちらりと盗み見るように年下の恋人に視線を向ければ、予想通り笑っていた。満足そうな顔で。


オレは、この笑顔が好きだ。



「もう一回やろう」



そう言いながら、返事を聞く前に勝手に駒を並べて準備を進める。



「えー…めんどくせえ」



その言葉に、自分でも情けない顔になったのがわかった。
シカマルが小さくのどの奥でくっと笑ったのが聞こえた。これじゃあどちらが大人かわからない。



「〜〜じゃあ、今度負けたら晩飯の準備と片付けと風呂掃除はオレがやるからよ」



何度も繰り返すこんな申し出。

「…いいぜ」

その返事も、いつもと同じ。


「よし、じゃあオレからな」


その言葉に笑う俺も、いつもと同じ。



こんなさりげない日常を繰り返せる幸せを、こいつと一緒にいるとよく感じる。
忍として生きる以上、お互いにいつ死んでもおかしくないのだから。



パチリ



最初に始めたときは日はまだまだ高かったのに。
もう、西の空は赤く染まりかけている。
この局もどうせオレが負けて、そんでしぶしぶながらも飯を作り出して、それを待っている間にオマエは昼寝でもしてるんだろうな。




くそ、ありえねえくらいに幸せな一日じゃねえか。


全部、コイツのせいだ。









この日常を失いたくない。



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