初詣







1月1日
要するに、元旦




そんな日に、家族がそろって出かける目的は、決まっている。







初詣だ。










言いだしっぺは、サクラだった。

「ねえ、せっかくだし、みんなで初詣に行かない?」

その言葉に逆らえるものは、うちは家には誰一人としておらず、

「モモちゃん、行きたい!」

駄目押しまでされてしまっては、他のどんな用事があったとしても、優先しただろう。

何せ、うちは家の黒髪3人組は、桃色の髪の2人に滅法弱かったので。


「一緒に行こ?」


モモが、自分たちを見上げて少し首をかしげた瞬間、3人の心は一つになった。



「「「さあ、初詣だ」」」









「モモ、ほら。おいで」

木ノ葉神社についたはいいが、あまりの人の多さに、モモを歩かせるのは不安だった。
父親やヒイラギにとられる前に…と、カイはモモを抱き上げる。
2方向から、不満全開な視線を向けられたが、気にしない。こんなことで一々反応していたら、この家では生きていけないし、そんなにヤワではない。
「うわぁ」
いつもよりも高い視線に、嬉しそうにモモが笑う。
それだけで、2方向からの視線は、刺々しいものから柔らかいものへと変わる。
サスケは、モモはカイとヒイラギにまかせることにし、自分はサクラの肩を抱く。
ヒイラギは、カイの隣でモモの嬉しそうな表情を、思う存分堪能することにした。
やっぱり、カイがモモを抱いているという事実は気に入らなかったけれど。


「それにしても、やっぱりすごい人出だな…」

人ごみがあまり好きではないサスケがそうつぶやくと

「そうね」

サクラが同意し、あたりを見回した。

「でも、同期の人たちには会わないわね」

きょろきょろとあたりを見回すと、何人かの知り合いを見つけ、軽く会釈をする。
しかし、同期の人たちはまったく見当たらない。


「ああ…。ナルトは綱手様と自来也と新春年初めの博打に行った。お年玉の出費を取り返すつもりらしい」

サスケのセリフに、サクラは少し微笑う。

「ナルトはともかく、綱手様たちは大丈夫かしら。シズネさんは新年から気苦労が絶えないでしょうね」

その笑顔に見とれた周りの男どもに殺気を走らせながらも、少し笑って同意の印にうなずく。サスケは昔とは比べ物にならないほどよく笑うようになった。それは、今、隣に立っている妻のおかげだろうか。

「そうだな。…ヒナタとメンマは日向宗家に新年の挨拶に行ったらしい。本来ならナルトも行くべきなんだが綱手様と自来也のお供ということで免除してもらったとか」

火影になったというのに、相変わらずかしこまった席が苦手なスリーマンセルの仲間を思い出し、サクラは苦笑する。

「ナルトらしいわね。それじゃあ、椿たちも宗家に挨拶に行ったのかしら?」

サクラの言葉に、今度はサスケではなくカイが答える。

「ああ。レイがそう言ってた。けど、今日は顔を見せるだけでちゃんと挨拶をしに行くのは3日の日らしい」

サクラだけでなく隣のヒイラギも不思議そうな顔をする。顔にこそ出さないもののサスケも不思議に思ったらしく視線で先を促してくる。

「萩さんが任務で帰ってきてないから、帰ってきてから4人できちんと挨拶に行くってこないだレイが言ってた。それに、今日は他の分家の連中も集まってきて落ち着けないから…ということらしい」

その説明に、皆なるほど、という顔をする。
ちなみに、萩とはレイの叔父で椿の弟だ。
カイがよいしょ、とモモを抱きなおすと、今度はモモが口を開いた。

「だからね、明日レイお姉ちゃんのところに行ってもいい?」

「ネジのところにか?」

モモの言葉にサスケが確認の言葉を吐く。
もともとは大して親しくなかったのだが、お互いの長子が同年齢ということもあり、今ではかなり親しいといえるだろう。お互いの家に行くのも、珍しいことではない。

「『2日は家にいるからよかったら来て』ってレイお姉ちゃんが言ってたんだよ」

大好きな兄の幼馴染の少女に誘われたことがよほど嬉しかったのだろう。にこにこと愛らしい笑顔で、モモが言う。

「モモちゃん、行きたい?」

サクラがにっこりと笑ってモモの顔を覗き込むと、モモは元気にうなずく。

「うん!」

その様子に
(我が娘ながら可愛いわ)
などと考えながら、傍らに立つ夫を見た。

「新年の挨拶もしたいし、どうかな?」

「向こうがいいって言ったんだったら問題はないんじゃないか?」

モモが喜んでいるし、と付け加える。
ちなみに、当然のことながらサスケの頭の中には長男のことなどない。

「じゃあ、みんなで行こうか。ね、イラちゃん」

幼い子供にするようにヒイラギの頭をなでてやると、ヒイラギは嬉しそうに笑った。
ありえないが、もしこの手が父か兄のものだったなら、触れた瞬間に吹き飛ばしていただろう。

「うん」

その笑顔に、サクラは心の中で思う。
(イラちゃんは、サスケくん似だけど、やっぱりこうやって笑ってくれるのは私に似たのかしら。…全然笑ってくれなかったものね。それにしても、イラちゃんも可愛いなぁ…)
そうして、無意識の笑みを愛する娘に向けて零すのだ。

笑顔を自分ではなく娘に向けられたことに少々嫉妬を覚えながら、サスケが話を元に戻す。

「シカマルのところは、奈良と山中の両親と、チョウジのところで宴会をやるらしい」

あそこの一家は、それぞれ実家の父親から迷惑なくらいに愛されている。いつも『ウザい』と言っているが、なんだかんだ言って相手をしてやるのは本気で嫌がっていない証拠だろう。

「ああ、面倒くさいって、アスカとキョウがぼやいてた」

昨年最後に会った時の二人の様子を思い出して、ヒイラギが少し笑った。
本気でうんざりしている様子だった。

「ああ、だからか。アスカがいつにも増して凶暴だったのは」

アスカとは顔を見合わせるたびに軽い口喧嘩をするカイが、つぶやく。

「カイくんったら、女の子に対して“凶暴”だなんて失礼よ」

サクラがカイを諭すように言う。
どうやら、下忍時代にサスケを取り合っていのと罵り合っていたことはすっかり記憶から削除されているらしい。
…都合のいいときだけ。

「果たして、あれを女に数えていいものか…」

本気で悩むようにつぶやくカイを不思議そうに見上げながら、モモが首をかしげる。

「なんで?アスカちゃん、かっこよくて可愛いよ?モモちゃん、アスカちゃんも大好き」

その言葉に、今度はヒイラギが反応する。

「モモちゃん、アスカは確かにいいやつだけど、間違ってもあんなふうになりたいなんて思わないでね」

目が、かなり真剣だ。隣でカイも、うなずいて妹のセリフに同意している。
ヒイラギはかなり失礼なことを真顔で言っている。…まあ、仲がいいからこその気安さで口が滑ったのだろうが。

サクラは、一応コメントは差し控えておくことにした。
どうやら、親友の娘は彼女の男らしい部分を多分に受け継いだらしい。

「あ、ほら。話してたらもうお賽銭の順番だよ」

先ほどまで人がこれでもかというほど自分たちの前にいたというのに、気がつけばもう順番が来ている。
やはり、大好きな家族と一緒にいると時間が流れるのが常よりも早い。

「はい。モモちゃん。お賽銭よ」

サクラがにっこりと笑ってモモの手に握らせる。
その隣では、サスケが無言で賽銭をカイとヒイラギに向かって投げている。その速度は手裏剣に近いものがあるかもしれない。しかし、二人ともそれを難なく無言で受け止める。
…隣のほのぼのとした光景とはえらい違いだ。だが、この3人がにこやかに会話をしていたら、それはそれで恐ろしいのでこれでいいのだろう。

「あそこにね、お賽銭をいれてお願い事をするのよ」
「誰にお願いするの?」
「そうねぇ…神様かしら」
「そっか!神様ならなんでも叶えてくれるよね」

物騒な賽銭の受け渡しを終えた3人は、隣のほのぼのとした会話に耳を傾け、ついでに自分たちもほのぼのとした気分になる。

「ほら、モモ。あそこに向かって思いっきり投げるんだ」

カイが、優しくモモに言うと、モモは、うん。とうなずいて力いっぱい投げる。
それがちゃんと賽銭箱に入ったのを見て、嬉しそうに笑った。
そこまで見届けてから、他の面々も各々の賽銭を投げた。



パンパン



拍手(かしわで)を打ち(カイはモモを抱いているのでムリだったが)、それぞれ目を閉じて何かを祈る。



しばし目を閉じて祈った後、後ろが支えて(つかえて)いるので速やかにその場から退く。





「ねえ、何をお願いした?」


ヒイラギが興味津々、といった体で聞いてくる。

「おまえは?」

カイも、気になっていたのだろう。妹の問いには答えず、逆に問い返す。

「そっちが言ったら私も言う!」
「おまえが先に言えよ」
「やだ」
「交渉決裂だな」
「モモちゃんも、お兄ちゃんとお姉ちゃんのお願い事聞きたいなぁ」

溺愛する妹に言われ、うっとつまる二人だったが、でもやはり照れくさくて言えない。

「モ、モモは何をお願いしたんだ?」
「私も聞きたいな」
「内緒!」




そんな兄妹の会話を聞きながら、サクラはそっと微笑む。
なんだかんだ言って、この二人の仲は悪くはないのだ。ただ、間にサクラかモモを挟むとお互いに対抗するだけで。

「サスケくんは何をお願いしたの?」
「人に、願い事を話すと叶わなくなると聞いたことがあるな」
そう、つぶやくとサクラは苦笑した。
「じゃあ、言えないわね。お願い事は叶わないと意味がないもの」
「そうだな」


その言葉を聞いていたらしい兄妹も、口論をぴたりとやめる。


「…なんだよ」
「そっちこそなによ」
「叶わないと、困るからな」
「私もよ」
「モモちゃんも!」


歩きながら、サクラは幸せそうに微笑んだ。
どうした?とサスケが目で問えば、とびっきりの笑みを顔に浮かべたサクラがゆっくりと、言った。





「口にしなくても、きっとみんな願ったことは同じよ。そうでしょ?」





その言葉に、皆それぞれ先ほど心から願ったことを口にはださずに思い出す。


即ち








大切な人たちが、今年もみんな元気に過ごせますように








という、とても単純な、そしてとても大切なことを。





「…ああ」
「確かに、な」
「きっと同じね」
「じゃあ、みんながお願いしたから、神様も聞いてくれるよ!」
異口同音に、同意する。














今年が、よき年でありますように


祈りを込めて



Happy New Year










新しい年を、あなたたちと共に迎えられた喜び。
日頃お世話になっているYou〜ko様へ献上。




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