こひねがはくはのぞむもの 陸
※破廉恥です。ぬるいですが致してるのでR18です!
恋を自覚すると同時に絶望した。
敵国の主に恋をする、など。報われぬ実らぬ思い。咲くことなく朽ちてゆくだけの。万が一咲くことが叶おうとも実を結ばぬ徒花。いつかは殺さねばならぬ相手。そして、皮肉なことに誰よりその首をとることを熱望する相手に恋をしたのだ。
どちらかが女であれば子を孕み未来への望みを抱くこともできただろうに、奪い合うことでしか満たされぬ思いは不毛なばかりで。
いくさばでまみえては高鳴る胸は恋のためかその首をもとめるためか。
(…それでも、あきらめきれぬ。思い切れぬ)
ただ、狂おしいばかりに魂が渇望する。
「…ッ、ぁ…は、ん…」
着物の合間から除く白い肌に劣情を煽られる。
彼が幼い頃に得た病の名残がところどころに見え、戦国の武将らしく傷もいくつか残っている。
けれど、そういったものですら美しく見えるのはどういうことなのだろう。己がつけたわけでもない痕に嫉妬を覚えないではないけれど、それでもこれらはすべて彼が生き抜いてきた、病にも戦にも打ち勝って生きている証、そう思えばこれ以上なくいとおしい。
「っあぁ…ッ」
傷の跡に口付けながら、膝の上に抱き上げて向かい合わせで貫いた肢体をゆすれば甘くかすれた嬌声が鼓膜をくすぐり、背に回された腕に力がこもる。自尊心が高く人に甘えることを良しとしないこの人が必死になって縋ってくるこの瞬間がたまらなく幸福だ。
「政宗殿…」
名を呼べば潤みきった隻眼がひたと幸村だけを映す。
「お慕いしております」
ささやきながら目の淵をなめれば、彼の中がきゅうとすぼまって、その心地よさと反応の素直さにこっそり笑う。口ではなかなか素直になれないこの人は、けれどその身体や仕草が何よりも雄弁に幸村を想っているのだと伝えてくれる。
「んぅ…」
締め付けたことで政宗自身も快楽を感じたのだろう、ぎゅっと眉を寄せて目を閉じ、やり過ごそうと必死に耐えている。
「政宗殿、某を見てくだされ」
「…っ、あ…」
まぶたを舌でなぜて耳元でささやけば、いやいやをするように首を打ち振りながらも、ゆっくりと目を開ける。快楽ゆえの涙に潤んだ瞳の艶やかさがたまらない。
「あっ、ぃや…、は、んんっ、…ゅきぃ…」
ゆすって、突き上げて。そのたびに抱きついた幸村の耳元で政宗は甘い声を放つ。それにあおられてさらに激しく内部を穿てば、あまりの快感にすすり泣きながら嬌声をあげる。
「や、も…だめっ、…む、りぃ……ゆき、も…もぅ、イく、イっちゃ…」
幸村にすべてをゆだねた政宗の常よりも幼い物言いがいとおしい。もっと焦らして、ぐちゃぐちゃにして啼かせたいという雄の欲求が首をもたげるが、久方ぶりにみる最愛の人の痴態に幸村の限界も近い。
「イっって下され、政宗殿。某も、もう…っ」
「あっ、ひ、ああぁ…っ、」
前立腺を強くこすりあげながら最奥を穿てば、悲鳴にも似た嬌声を上げて政宗は白濁を互いの腹に飛沫上げた。強い締め付けに、幸村も背をしならせる政宗の腰を押さえつけて中に欲を注ぎ込んだ。
「っは、…ぁん…」
中に出される感覚に身体を振るわせた政宗は、くてんと力が抜けたように幸村にもたれかかった。
月と星のさやけき光に照らされた政宗の白い肢体に散った紅い独占の痕や情交の名残が淫靡なことこの上ない。再び兆しそうになるのを必死に押さえつけて、幸村は猫のように擦り寄ってくる政宗の髪を撫ぜる。未だ整わない息をもてあましながら、ぐりぐりと首筋に額を押し付ける仕草がかわいらしくて、叫びたくなる。
「んっ、…ゆき…」
甘えた声がどうしようもなくいとおしい。
「ゆき、ゆきむら」
「はい、政宗殿」
「ゆき、あのな、おれ…」
「はい」
疲労と心地よい倦怠感、何より幸村の腕に包まれているという安心感から政宗は頑是無い子どものように無邪気に、ふわりと頬を緩めてとっておきの秘密を告げるように幸村の耳元でささやいた。
「おれ、ゆきのこと、だいすきだ」
(まったく、どうしてくれようか…)
ちゅ、とかわいらしい口付けを幸村に落としてはにかむように笑う政宗は幼くて、普段の凛とした彼との差異に胸が高鳴る。自分だけに見せてくれる愛しい人のあどけなくも無防備な姿。
「某も」
「ん?」
「某も、政宗殿のことが、大好き、でござる」
ぎゅぅっと抱きしめて同じように耳元でささやいて、触れるだけの口付けを返す。
それにほんとうに嬉しそうに笑う政宗がいとおしすぎて、もう。
「我慢などできませぬ」
「へ?」
政宗が辛いだろうから、と今夜はもう放してあげるつもりだったのだけれど。
あまりにも政宗がかわらしいから。
だから、我慢なんてできるはずが、なくて。
「ひゃっ…!?」
「まさむねどの…」
抱きしめていた腕を滑らせて腰を撫でる。
「ゆ、ゆき…?」
「今宵ははなしませぬゆえ、御覚悟を」
にっこり笑ってやれば、さぁっと青ざめた政宗が必死に首を振る。
「や、も、無理…っ、んぁっ、…」
「某のことがお好きなのでしょう?」
「そ、だけど、でも…っ」
「なれば、某の愛を受け止めてくだされ」
しばらくうろうろと視線を彷徨わせていた政宗は、けれど、真摯に自分を見つめる幸村の眼差しに諦めたように幸村の背に腕を回した。
「…受け止めてやるから、全部寄越せ」
きっと今夜は天の川の瀬で一年ぶりの逢瀬を楽しむ天上の恋人たちも、この戦国という時代でひと時の逢瀬を重ねる地上の恋人たちも、互いの名を呼び、愛をささやき、そして飽くことなく誓いを繰り返すのだ。
天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝ならん、と。
月が恋人たちのあまりの熱愛振りに恥ずかしそうに雲に隠れてしまったことなんて、互いに夢中な彼らにはどうでもいいことでしかない。
この瞬間、腕に閉じ込めた互いの存在だけがこの世界のすべてなのだから。
そんな途方もない幸福を味わう今の彼らには、それ以外のことなんて何の意味も持たないのだ。
こひねがはくはとはにともにあらんことをのぞむ。
そう、星に願いを
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