今ここにいるのがあのころのままのオレたちだったのなら、きっと肩を並べて仲良く一緒に帰っただろう。
でも、あのころのまま成長することのできなかったオレたちは少し距離を開けて隣に並んで何も言わずに帰る。
あのころのオレたちが見たらなんというだろう。
あのころのオレたちを見たらなんと思うだろう。
恋人ではない。
互いに恋愛感情はもう持っていないから。
でも、昔のようにただの幼馴染だといって笑うこともできなかった。
「じゃあ、ね」
「ああ、また」
今でも仲はいい。
だけどいのにもオレにもそれぞれ恋人がいる。
だから二人で歩くのはなるべく避けたかった。
誤解されるのがイヤだから。
オレたちは互いの間にどの程度の距離をおけばいいのかわからなかった。
オレは昔いのが好きだった。
いのも昔オレが好きだった。
でも、オレたちは幼馴染以上の関係になることを互いに拒んだ。
“幼馴染”は特別だった。
特にオレといのは1日違いで生まれ、それからずっと一緒に育ってきたから。
“恋人”は終わりのある関係。
“幼馴染”は死ぬまで“幼馴染”。
確かにオレたちは互いを想いあっていて、とても大切な存在だと思っている。
それは今でも変わらない。
でも、いや…だからこそ、それ以上の関係になるのが怖かった。
オレたちの“特別”な関係に余計なものを加えたくなかった。
オレと、いのと、チョウジ。
三人で“幼馴染”で“特別”だった。
居心地が、よかったから。
あの場所が、大切だったから。
だから、オレといのの間に恋情を挟みたくなかった。
それはチョウジに対する裏切りのような気さえした。
だから、オレたちは互いに対する恋情を捨てた。
それは多分とても容易いことだった。
いのに対するそれを捨ててオレは楽になった。
いのも少しほっとしたように笑っていた。
チョウジは何も言わなかった。
また、昔のように“幼馴染”の特別な空気が戻ってくると思ってた。
でも、戻れなかった。
オレたちがなんと思っていようと、世間はオレたちを二人の男と一人の女として見たがった。
それぞれに恋人を作っても、それは変わらなかった。
いのに対する風当たりは特にきつかった。
「恋人がいるのにほかに二人も男を侍らしている女」
それがいのに対する風評だった。
オレたちが何を言っても無駄なのはわかっていた。
だから、オレたちはそっと距離をとるようになった。
オレとチョウジは男同士だから何の問題もなかった。
不思議なことにいのとチョウジが一緒に歩いていても特には問題がなかった。
それなのに、オレといのが隣同士連れ立って歩いていると互いに恋人に対して不誠実な人間のように言われた。
オレはいのが悪く言われるのは我慢できなかったし、いのもオレが悪く言われるのに我慢できなかった。
だから、大切で大切でしかたなかったけれど離れた。
オレたちに気を使ってか、チョウジとも少し距離ができた。
三人で会うことは少なくなった。
互いの家を行き来することもほとんどない。
二人きりで会うことは、もう偶然に拠るほかはなかった。
距離は変わっても、オレにとって二人は大切な幼馴染だった。
二人にとってもオレは大切な幼馴染だった。
だから、辛い。
だから、困る。
オレたちはどれだけ距離をとれば互いを守ることができるのだろう。
わからないままオレたちは距離を開けて歩く。
何も埋まらないむなしい空間が哀しかった。
もう、あのころのように一緒に歩くことはできないのかもしれない。
手を伸ばせば触れることのできる距離、というのは一番遠い距離かもしれないと思った。
近くて遠い
あの日恋をした僕らはどこへ行ってしまったのだろう
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