子守唄
「死んでしまえ」
なんでそんなこと言うんだってばよ…。
「なんで生きてるんだよ」
オレってば、生きてちゃダメ…?
「あの子に近づいちゃダメよ。あなたまで汚れてしまう」
…遊ぼうよ。…一緒に、遊ぼうよ……
「つーか、生きてる意味ないよね」
意味…意味…?
生きてる意味って、何?
意味がないと生きてちゃいけないの?
ねえ、意味って何?
みんな、それを持ってるの?
……生きるのに、意味が必要なら自分で作ってやるってばよ。
いつか、絶対に火影になってこの里にとって絶対に必要な人間になって、里のみんなにオレの価値を教えてやるんだ!
心を孤独に痛めながら、それに気づかないふりをした。
認めてしまえば糸の切れた操り人形のように動くことができなくなってしまいそうだったから。
『なに意味ないことしてんの?』
『バカじゃないの?おちこぼれはどこまでいってもおちこぼれなんだよ』
『おまえみたいなのが火影になれるって…本気で思ってるの?…このクズが』
『里のためを思うんなら、さっさと死ねよ』
『化け物』
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ
ソンナコト言ワナイデ…!
「っぁ………!」
言いようの無い悪夢に耐え消えれなくなったかのように飛び起きた。
汗でびっしょりと寝間着はぬれていた。
呼吸も常よりも速く乱れている。
「あ…」
涙が頬を伝うのを感じる。
仲間に囲まれて幸せに笑うことができる今、あのころの恐怖は幼いころよりも重くのしかかる。
「ナルトくん…?」
「ヒナタ…」
横を向けば、眠たそうに、でも心配そうな顔で自分を見つめるかつての同級生がいた。
「悪い…起こしちまったってば?」
なんとか呼吸を落ち付けながら、意識して落ち着いた声を出した。
「…どうしたの?悪い夢でも見たの?」
体を起こしながら優しい声で問いかけてくるヒナタ。
どうして、彼女はこんなにも優しいのだろう。
その優しさが何よりも自分を落ち着かせる。
「わ、…すごい汗だよ。…大丈夫?」
ムリに応えを求めずに、ただただやわらかく言葉をつむぐことができるヒナタを、すごいと思う。
もし逆の立場だったら多分オレはムリに理由を聞き出そうとしてしまう。
忍としての力量は確実にオレのほうが上だけど、人としての強さはヒナタのほうが上だ。
「………」
ただひたすらに優しい手つきでヒナタはふかふかのタオルを使ってオレの汗をぬぐってくれた。
「ヒナタ…」
そっと、壊してしまわないように、そっと。
ガラス細工を扱うように慎重に、ヒナタを抱きしめた。
「ナ、ナルトくん?」
ヒナタが少し焦った声を出す。
「ヒナタ…」
もう一度名前を呼んで、少しきつく抱きしめた。
暖かい。
この暖かさを、誰かの暖かさを知らなかった幼いころの自分をかわいそうだと思う。
「ごめん、悪いけどちょっとだけ…このままでいて欲しいってばよ」
我ながら情けない声を出してしまったと思う。
ヒナタは何も言わなかった。
何も言わずに、ただ優しくオレの汗で湿った髪をすいてくれた。
その優しさと暖かさに涙が出そうになる。
その優しさに甘えるようにゆっくりと、からだを横たえた。
「…このまま、寝てもいいってば……?」
ちょっとだけと言ったのは自分のくせに、この暖かさをはなしたくなくて、オレは子供のようにそうねだった。
ヒナタはやわらかく微笑むと、こくんと軽くうなずいた。
それが嬉しくて笑って…たぶん、泣き笑いになってしまっていた…それから、眼を閉じた。
「―――」
ヒナタが子守唄を歌う。
誰かに子守唄を歌ってもらうのは、初めてだということに気がついた。
誰も、オレのために子守唄を歌ってくれなかった。
その優しい旋律に、柔らかな歌声に、心が落ち着いていくのを感じた。
悪夢によって心に落とされた大きな氷の塊がみるみるうちに溶けてゆく。
「ありがとう…」
なんとかそれだけ言うと、髪をすく優しい手の動きと、小さな声でつむがれる柔らかい歌声にオレの意識はもう一度眠りの波にさらわれていった。
次に見た夢は、言葉にできないくらい幸せで光に満ちたものだった。
キミになら、キミだからこそ見せることができる僕の弱さ
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