やっとこの手に掴んだ小さな幸せ
私たちは幸せだから
だから、私たちの大切な、大好きな人たちにも知ってほしい
私たちはこの道を行くのだと
わかってほしい
自分で選んだ道なのだから、決して後悔などしないと
結婚騒動 1
あるよく晴れた日の昼下がり。
いのいちは愛娘と過ごす時間にだらしなく頬を緩めていた。
いのが、あることを言うまでは。
「…いの、今なんて言った…?」
彼の背景には暗雲渦巻いている。
「だから、シカマルと結婚するの」
が、いのは父親のそんな状況は気にも留めずにあっけらかんと言い放った。
この世の終わりのような顔をしている父とはうってかわって、娘のほうは、何処からどう見ても…楽しそうだ。
「…要するに、いのちゃんは…あの、あの、あの…奈良シカクのせがれの奈良シカマルと……結婚するって言うのか?」
「ええ、そうよ」
「だめだ!!許さーーーん!!!!!!」
「いのちゃんには、いのちゃんには、俺がいつか、どこからどう見ても申し分のない立派で有能な美男子を婿に連れてきてやると決めていたのに…それなのに、それなのに、よりにもよってシカクのせがれなんかに俺のかわいいいのちゃんをやれるか!!!」
「シカマルだって十分有能よ」
「あんな、年中昼寝しては雲を眺めているような宿六と、俺のかわいいいのちゃんが…ああ、考えるだに腹が立つ!」
「…」
もはや、いのの言葉も耳に届いていないらしい父親にため息をついた。
「パパったら、わたしのことが嫌いなのね…」
いのの泣きそうな声に反応して振り返れば、目に涙をためたいのがとても悲しそうにうつむいていた。
「い、い、い、いのちゃん?」
「パパったら…もう、わたしのこと、嫌いになっちゃったの…?」
「まさか!天地がひっくり返ろうとも、太陽が西からのぼろうとも、そんなことだけは絶対に、絶対に、絶対に、ない!!いのちゃんは永遠にパパの天使だよ!!!」
がっちりといのの両手を握って力説するいのいちに内心顔をしかめながら、いのは更に言った。
「じゃあ、どうして…わたしたちのこと反対するの?」
「お、おまえたちは、まだ若いし…」
「サクラなんて、17で結婚したのよ。わたしはもうすぐ19歳。若すぎるなんて、思わないわ」
「ふ、二人で生活が…」
「問題ないわよ。料理も掃除も洗濯も、家事は一通りできるもの」
「せ、生活費は…」
「シカマルはパパと同じ上忍よ。確かに若いけど…それでも、火影様にも信頼されてる有望な忍、って言えるんじゃないかしら。それに、わたしもアカデミーで講師をやっているんだから、収入に関しての問題はないわ」
「えっと、それでも…」
尚も言い募ろうとする父親の言葉を遮っていのは言った。
「パパは、わたしの子どもを私生児にしたいのね…」
「………………え?」
「わたしがパパにたくさんかわいがってもらったみたいに、この子にもやっぱりお父さんがいると思ってたけど、…お父さんなんて、必要ないってパパは言うのね」
「まさか!」
さりげなく自分にとって父親は重要な存在なのだとほのめかしながらのセリフに、反射的にこたえてからようやく我に返ったいのいちは恐る恐るといった体で聞いた。
「いのちゃん…、まさか…」
「私、妊娠してるの。もう3ヶ月よ」
余談ではあるが、そのときのいのいちの顔は、それはそれは見ものであったという。
「だ、だ、だ、誰の子だ!?」
ガシッといのの腕を掴み、すごい勢いで迫るいのいちに、いのは今度こそ呆れた顔をした。
「もちろん、私の子よ?」
「いや、だから、えっと、パパがききたいのは…」
「この話の流れで、シカマル以外の誰がいるのよ」
「……いの、奈良の家に行くぞ」
不気味な沈黙の後、すぐにその場から姿を消した身のこなしは、腐っても上忍といったところか。
「はいはい」
やれやれ、といった風に返事をするいの。だが、すでにいのいちはこの場にいないため、意味はないものであった。
「チョロイわね」
いののこの呟きをきかずにすんだのは、いのいちにとって幸せだったかもしれない。
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