結婚騒動 2
時間は少々さかのぼり、山中家で父娘が会話をしているころ。
「あ、そうだ」
「んあ?」
「オレ、結婚するから」
奈良家では、シカマルが突然そんなことを宣言しだした。
思わず、香車を動かしかけた手も止まるシカク。だが、さっさとやれよ、というシカマルの言葉にすぐに気を取り直してパチリ、と予定通りの場所に香車をおいた。
「…誰とだ?」
「いの」
間髪をいれない返事と共にパチリ、と動かされる飛車。
「…山中の、娘か」
「ああ」
パチリ、銀を動かしながらシカクは考える。
(いのちゃんがオレの義娘になるってことか?…山中の様子が目に浮かぶな)
「ちゃんと言ったからな」
歩兵を動かしたシカマルがそう言ってこの話を終わらせようとした。
「おい」
「あ?」
「オレはまだ、認めるともなんとも言ってねえぞ。親父にも勝てねえようなガキが家庭を持つのは、ちっとばかし早いんじゃねえか?」
角をパチン、動かしたシカクがそう言えば、眉を少し動かしたシカマルは無言で腕を動かした。
パチン
「げっ」
「王手」
板状では、桂馬が確かに王をとらえていた。どちらに動かしても、何かしらの駒が王をとらえる。逃げ場など、どこにもない完璧な布陣。
「…」
「オレの勝ち、だな」
「…」
シカクが不服そうに口を開いた。
「おい…」
「奈良のせがれはいるかーーー!!!」
が、突然飛び込んできたいのいちの声に遮られてしまった。
「おい、山中。不法侵入してんじゃねえよ」
シカクのもっともな突込みを堂々と無視して、いのいちはシカマルにつかつかと歩み寄る。
「おじさん、お久しぶりです」
胸倉を掴み上げられながらも少しも動揺せずいつもどおりに挨拶をする息子を見て、シカクは少しだけつまらないと考えたが、口には出さない。
「貴様…」
すごい形相でシカマルを睨みつけるいのいち。
(山中のうしろに暗雲が見えるぞ、おい…)
親友のあまりな迫力に、思わずため息をつくシカク。
「よくやった」
打って変わって満面の笑みで、いのいちはシカマルの肩をがしりと掴んだ。
「は?」
思わず間抜け面になったのはシカクだ。
シカマルはため息をつくのをこらえているような顔をしている。
「名前はもう決めたのか?予定日はいつだ?ああ、それよりも式はいつの予定なんだ?バージンロードはまかせておけ。俺がしっかりといのちゃんをエスコートしてやるからな」
「?なん話をしてるんだ?おまえは?」
わけがわからない、といった顔をしているシカクに向かって、シカマルはあっさりとこたえる。
「ああ、いののやつ妊娠してるから。そろそろ…3ヶ月くらいだったか?」
「そういうことはもっと早く言え…」
シカクの文句を無視して、とりあえずいのいちの腕を自分から離して先ほどの問いに答える。
「男か女かもまだわからないので名前もまだ決めていません。予定日は…オレよりもいのにきいてください。で、式は…いののお腹が目立ってくる前に、というわけでできるだけ早いうちに。まあ、いっそのこと入籍だけでもいいか、という話もでてます」
「いや、式は何が何でも挙げろ。オレにいのちゃんの晴れ姿を見せろ」
「はぁ…」
げんなりとため息をついたシカマルを無視して、父親二人は言う。
「「名前はオレにまかせておけ」」
「あら、パパたちはダメよ」
なんとも丁度いいタイミングでいのが登場した。
「おじさん、久しぶりです」
「いのちゃん、美人になったな」
「オレの娘なんだから、当然だろ」
「なんだ、おまえも着たのか」
「だって、パパったら何を言い出すかわかんないんだもん。…きて、正解だったでしょ」
「まあな」
肩をすくめて同意するシカマル。二人とも、こういう類の話に関しては父親を信頼していないらしい。言っていることは、なかなかひどい。それでも、楽しそうな雰囲気から察するに、100%の本気ではないようでがあるけれど。
「ま、とにかく、オレたち結婚するから」
「この子ともども、これからもよろしくね」
いのの手を軽く握ったシカマルと、シカマルの手を握り返しながらもう一方の手でいとおしそうにおなかを撫でるいの。
幸福そうな二人の姿に、父親たちも嬉しそうに微笑む。
「「おめでとう」」
返された祝福の言葉は、とてもとても温かくて、二人はこっそりとこの人の子どもでよかった、と思った。
大切な、大好きな人たちは
オレたちのことをわかってくれて、祝福してくれた
それだけで、なんでかな
すごく、すごく嬉しくて、なんでもできる気持ちになれる
もう護られるだけの小さな子どもではないけれど
オレたちはいつまでもあなたたちの子どもだから
だから、見守っていて欲しい
オレたちは、もっと、もっと、幸せになるから――
みんな、みんな幸せな明日を夢見ることができればいい
“Do you enjoy?”のYou〜koさんにサイト開設祝いとして献上
1へ
BACK